それでもキミと、愛にならない恋をしたい


 その言葉を聞き、私はハッとして俯いていた顔を上げ、隣に座る真央さんを見た。

「嫉妬を感じる気持ちは、私にもわかるよ。洋司さんが今も菜々ちゃんのお母さんを大切に思ってるのはわかってるし、毎朝おしゃべりしてるのも見てるから。でも、過去があって今の洋司さんがいると思ってるし、結婚の話が出た時、覚悟ができたらお受けしようと決めてたから」
「覚悟?」
「うん。菜々ちゃんのお母さんの分も洋司さんを愛して、洋司さんが菜々ちゃんのお母さんを愛しているのを受け入れる覚悟。それができないなら、再婚なんてしちゃいけないって思ったの」

 静かにそう語る真央さんの横顔は、凛としてとても綺麗だと思った。

 お母さんに対する罪悪感も、お父さんがお母さんを大切にし続ける気持ちも、全部受け入れる覚悟があるからこそ、真央さんは穏やかに話しているんだ。大きな気持ちで、お父さんとお母さんを大切に思ってくれている。

 私には、とても真似できそうにないほど……。

「……ごめんなさい、ずっと、嫌な態度を取り続けて。今も、私、すごく失礼なことを、たくさん……」
「ううん、菜々ちゃんはなにも悪くないよ。受験を邪魔したくないのと、でも環境が変わるなら入学と同時がいいかもっていうので、菜々ちゃんに再婚を伝えてから同居まであっという間だったもん。気持ちの整理の時間すらあげられなくて、ごめんね」
「……真央さん、が、お父さんのことだけじゃなくて、お母さんのことも考えてくれてるのはわかりました。でも……」
「うん。すぐには納得できないし、お父さんがどう思ってるのか聞きたいよね」