「どうしてそんなお父さんを選んだんですか? どうして……お母さんの話をそんなふうに穏やかに聞けるんですか? お父さんはまだ忘れていないのに、浮気とか二股だって……自分は二番目だって思わないんですか? お母さんが生きていれば、絶対に結婚できなかったんですよ?」
取り乱さないようにって思っているのに、楓先輩を想う私と同じ境遇の真央さんの話をしていたら、まるで自分のことのように辛くなって涙が滲んでくる。
「それに……お母さんに対して、罪悪感はないですか? お母さんの大切な人を奪ったって……考えて……夢に出てきたりしないですか……?」
「菜々ちゃん……」
「私は……耐えられない……っ、忘れてしまうことも、忘れさせてしまうことも……前向きに生きるって、それは死んじゃった人への大切な気持ちを忘れることなの……っ? どうして嫌いになったわけじゃないのに、別の人を好きになるの……? 忘れられない人がいる人を好きになったら、どうしたらいいの……?」
堰を切ったように次から次へと溢れてくる言葉は支離滅裂で、聞き取りづらいほど震えている。
泣くな。泣くな。自分に言い聞かせながら俯いて唇を噛みしめていると、正面に座っていたはずの真央さんが私の横に膝をつき、背中をそっとさすってくれた。



