田村先生は何事もなかったかのように問いかけてきた。
私は布団の中で必死に目を擦り、涙の跡をできるだけ消してから顔を出した。先程までの酷い頭痛や吐き気はないと伝えたが、田村先生は眉を下げて苦笑する。
「うーん、今日は帰ったほうがよさそうね。家でゆっくりするといいわ。おうちの人に迎えを頼む?」
そう聞かれ、私は咄嗟に大きく首を振った。
たしかにこのままでは授業も上の空になってしまうから帰るべきなんだろうけど、仕事中の父にも、自宅にいる真央さんにも連絡してほしくない。会いたくない。今会えば、きっと心ない言葉をぶつけてしまいそうな気がする。
私の様子でなにか察した田村先生は「わかった。じゃあ荷物をクラスの子に頼んでくるわね」と再び保健室を出ていった。
京ちゃんと田村先生が持ってきてくれたスクールバッグを持って、私はひとりで歩いて早退すると決めた。
京ちゃんは日野先輩から楓先輩の話を聞かせたことに罪悪感を覚えていたけれど、京ちゃんのせいじゃないときっぱりと否定した。



