それでもキミと、愛にならない恋をしたい


 楓先輩が驚きに目を瞠っている。

 私の頬を涙が伝う。どうしても堪えきれなかった。

 好きになってはいけなかった。楓先輩の心の中にはまだ原口希美さんがいるはずなのに、そこに私が無理やり押し入ってしまったんだ。

 もしかして、この間お母さんのお墓に行った時、お父さんも同じように報告したんだろうか。

『亜紀ちゃん。僕、再婚したよ。真央のおかげで前向きになれたし、今めちゃくちゃ幸せなんだ』

 お父さんがそう言ったわけじゃない。私が勝手に想像してるだけ。お父さんと楓先輩を重ねて、ひとりで勝手に傷ついているだけ。

 わかってるのに、涙が止まらない。

 お母さんのことを忘れたくない、お父さんにも忘れてほしくないと願いながら、私は楓先輩が原口希美さんを過去にして私を選ぼうとしていることを、嬉しいと感じている。

 それと同時に、亡くなった人には永遠に勝てないんじゃないかという不安も押し寄せてきた。