『さまざまな不思議なことが起こっていたという神代の昔でさえも、こんなことは聞いたことがない。龍田川に紅葉が浮かび、真っ赤な紅色に水をしぼり染めにしているとは』
現代語訳を書き写しながら、なんとなく川が紅葉で真っ赤に染まった綺麗な情景だとわかるけれど、どこが恋の歌なのかと首をかしげる。私は興味を引かれて解説書を読み進めた。
そこには業平の、元恋人だった高子への切ない想いが込められていた。
(要するに、他の男性と結婚した高子のために業平が詠んだ歌で、彼女が人妻になり子供を産もうとも、その姿は見たこともないほど美しいって感じたってこと……?)
なんてロマンチックな歌だろう。駆け落ちするほど大好きだった人と別れさせられ、その相手は無理やり天皇に嫁がされ子供まで産んだのに、まだ彼女を想い続けていたなんて。
この頃の業平は五十歳くらいらしい。その年になってもひとりの女性をずっと想い続けるのは、どのくらい大きな気持ちだったんだろう。
解説には諸説あると書いてあるけれど、私はこの解釈がとても気に入った。ひたすら一途な想いの籠もった歌は、私の心に小さな棘を刺す。



