あれは一体なんなのだろう。
好きじゃない女の子に触れたり触れられたりしたくない? でも男子の図書委員にも同じ対応をしていたから、もしかして潔癖症?
数ヶ月前に私を助けてくれた佐々木先輩の印象とはまるで違う。
あの時の先輩は、見ず知らずの私に寄り添い、ずっと手を握ってくれた。ようやく我に返って泣き止んだ私の頭に手をのせ、とても柔らかい表情で笑ってくれた。
けれど学校では、日野先輩と話している時以外はポーカーフェイスでクールな雰囲気だ。
なんだか佐々木先輩の違う一面を見たような気がして、もっと彼を知りたいという欲求が湧いてくる。
またしてもじっと佐々木先輩を目で追っていることに気付き、慌てて視線をノートに移した。
見ていたことに気付かれないよう、私は目の前の課題に集中しようと解説書をめくって目当ての和歌を探し出す。
『ちはやぶる 神代も聞かず 龍田川 からくれなゐに 水くくるとは』
授業でこの伊勢物語の主人公は、実際に存在した歌人、在原業平がモデルだと習ったけれど、稀代のプレイボーイと言われた業平が一体どんな歌を詠んだんだろう。解説書には恋の歌とも書かれてある。



