慌てて顔の前で手をブンブン振ると、先輩が可笑しそうに笑った。
その表情で単なる冗談だとわかり、私はむうっと口を尖らせる。
「もう、先輩がそんないじわるなんて知りませんでした」
ついそんな軽口をたたいてしまったが、先輩は気分を害した風もなく、さらに笑みを深めた。
目を細めたその表情が、まるで大切なものを見るかのように優しくて、柔らかくて、きゅんと胸を締めつけられる。
じっと見られると、からかわれたことに怒っているフリすら続けられない。ふくれっ面はすぐに頬まで赤く染まっていき、私は視線を彷徨わせた。
「そう? 俺は元々こんなやつだけど。逆に菜々は俺をどんな男だと思ってたの」
クスッと笑いながら問われ、私は楓先輩と初めて出会った時のことを思い出した。
見ず知らずの私を身を挺して助けてくれた優しさや、真冬の冷たい地面にしゃがみ込んで泣く私に寄り添ってくれた温かさは、きっと一生忘れられない。



