これから語られることをあたしは一字一句聞き逃さないように、ぎゅっと握り拳をつくった。 そして、握った自分の掌がジワリと汗ばんでいくのがわかる。 本当は耳を塞ぎたい。 今すぐ逃げ出したい。 綺麗なままのカタチを覚えておきたい。 だけど、このままじゃ すべてがいつか色褪せていく思い出になっていくのだろう。 慧斗のことも、梨紗のことも、綾子さんのことも、玲のことも "そんなこともあったね" で終わらせたくはない。 傷を恐れていては何ひとつ守れやしない。 あたしは虚像に拳をいれるのだ。