SENTIMENTALISM



魔法みたい、なんて、そんなファンタジックな言葉を今ここで、こんな状況で、頭によぎらせてしまったのは、慧斗の諭すような口調があたしの呼吸を自然と規則正しくしてしまったから。


「……触られた。知らないオヤジに」

聞こえないかもしれないくらいの小さな声で、あたしは呟く。

だけど慧斗の耳には届いたようで、あたしの肩を掴む力が一層強くなる。


「アイシテルって言われた。気持ち悪い笑顔で。最後までは……してない。てゆうか、耐えられなくなって逃げたんだけど……」

「……なんで、そんな状況になったんだよ?」


とても静かに、慧斗はそう言った。
冷静に落ち着き払った声で。

だけど、慧斗はすごく怒っている。

それだけは、分かる。

ものすごく怒っている。