あたしは
ただ思い思いに同じ時間を同じ場所で過ごす慧斗と梨紗と玲をぼんやり眺める。
三人とも誰かに同調しようとする素振りはまったくない。
特別なことをしているわけではないが、自分を生きているという自信のようなものが、あたしには見えた。
今まで必死に偽物を纏ってきたあたしは
ただこの部屋に広がる空気感を胸に吸い込むだけで、淀んだ心が澄んでいく気がした。
それは空をぼんやり眺めたり
森林の中で思い切り深呼吸することと
似ている気がした。
自分の心臓がとくんとくんと、一定のペースで小さく動いているのが聞こえた。
その音に耳を傾けることが出来たのは随分久しぶりのことだった。
あたしは目を閉じて、久しぶりに聞く自分の心臓の音に耳を傾けつづけた。
そして、
一筋の涙が頬をつたった。
「また、おいで」
帰り際、慧斗が優しい笑顔で言った言葉を、あたしはその日から今日までずっと守り続けている。