捨てられ秘書だったのに、御曹司の妻になるなんて この契約婚は溺愛の合図でした


残念ながら今は素敵な服にもコスメにも縁遠いが、いつか余裕ができたら、このふたつのブランドで全身コーディネートがしてみたい。そんな夢をこっそり抱いている。

「いらっしゃいませ」

店内をうっとりと眺めていると、奥から細身の黒いスーツを着た女性の店員が声をかけてきた。

(あれ? そういえば副社長はここになにをしに来たんだったっけ……?)

凛が亮介に視線を向けると、彼もまた凛を見つめていた。その眼差しは秘書に向けるにしては甘すぎて、堅物副社長の異名が霞んでしまうほど。

(なっ、なんでそんな目で見てるんですか……)

ふたりの視線が絡まり、凛はすぐさま目を逸らす。そのほんの一瞬の交わりに、大げさなほどドキンと心臓が跳ねた。

「彼女に似合う服をいつくか見せてもらえますか。そうだな、とりあえず二週間分のコーディネートを組んでほしい」
「かしこまりました」

聞こえてきた亮介のセリフに、凛はぎょっとする。