約束の時間ぴったりに秘書室へ現れた亮介に連れられ、着いた先は『ソルシエール』という高級アパレルブランドの本店。
ブラックスーツを着た海堂家お抱え運転手の真鍋が運転席から下り、後部座席のドアを開けた。
「ありがとう。今日はこれで下がってください」
亮介は二十ほど年上の運転手に対し、毎日礼儀正しくねぎらいの言葉をかけている。自分の立場に驕らず、年上の相手への礼節をわきまえているところを凛は好ましく思っていた。
「かしこまりました。では明日いつも通りのお時間にご自宅へお迎えにあがります」
「よろしくお願いします」
後部座席から下りた凛が困惑に固まっている間に、真鍋は再び運転席に乗り込み、黒塗りの高級車が走り去っていく。
(てっきり旗艦店か百貨店に視察に行くんだと思ってた。どうしてアパレルブランドに……?)
頭の中ははてなでいっぱいだが、上司の前で戸惑いを全面に押し出した振る舞いをするわけにいかない。
真面目な凛は秘書の仮面をつけたまま、隣に立つ亮介を仰いだ。
「行こうか」
迷いなく歩みを進める亮介に続き、凛も店内に足を踏み入れた。



