亮介は仕事の用件以外で話すことはほとんどない。凛だけでなく他の社員に対しても同様だ。それゆえ堅物や鉄仮面などと呼ばれている。
しかし今こうして業務に関係ない話を振ってきたのは、凛を知りたいからだと言う。
戸惑う凛に、苦い顔をした亮介が続けて質問してきた。
「立花はファッションやメイクといった可愛らしいものが好きなんだと思っていたんだ」
「は、はい。コスメはもちろんお洋服も好きですが、家庭の事情であまり余裕がなくて……」
「家庭の事情?」
おうむ返しに問われ、ハッと我に返る。ついバカ正直に答えてしまったが、自社の副社長に聞かせる話ではない。
「失礼しました。業務中にする話では」
「君は俺の秘書であり、結婚を申し込んでいる女性だ。差し支えなければ聞きたい」
凛の言葉に被せるようにして亮介が言う。決して好奇心などではない真摯な眼差しを向けられ、凛は息をのんだ。
これまでふたりの間では、プライベートに関する話題など、一度も出たことがない。しかし先日元恋人との修羅場を見られ、その延長でなぜか結婚を申し込まれてからというもの、亮介との距離感が多少なりとも縮まった気がする。



