「ところで、君は非常に優秀だがメイクも服装も素朴だな」
そう指摘されギクリと身を固くした凛に、亮介は慌てたように首を振った。
「いや、別にそれがダメというわけではないが、うちに入社したからにはメイクや華やかな装いが嫌いなわけではないだろう。自社ブランドなら社割りも利くし、十分な給与はあると思ったんだが」
通常、上司から部下へ外見についての指摘をするのはセクハラと取られそうなものだが、凛は不快になったわけではない。
もちろんオシャレやメイクも好きだし、自社ブランドがどこのコスメよりも優秀で可愛いと思っている。
しかし地味で痩せっぽっちな自分が華やかなメイクや服装をしたところで仕方がない。卑下しているわけではなく、秘書は黒子でいいと思っている。
それに、如何せん自由に楽しむお金がないのだ。
社会人として最低限の身だしなみは気をつけているつもりだったが、化粧品会社の副社長の秘書として会食などにも同行するのだから、もう少し華やかな装いを意識すべきだっただろうか。
「申し訳ありません。今後、視察や会食などに同行する際は善処いたします」
「いや、咎めているわけじゃないんだ。雑談の中でもっと君を知れたらと思ったんだが……すまない、こういったことに慣れていなくて」



