捨てられ秘書だったのに、御曹司の妻になるなんて この契約婚は溺愛の合図でした


キリッとした表情で淡々と話していた彼の目が細められ、表情がグッと柔らかくなる。

ガラリと雰囲気を変えた亮介に、鼓動が跳ね上がった。

それは凛だけでなく会場にいた多くの女性社員も同じだったようで、あちこちからハッと息をのむ音や小さな黄色い悲鳴が上がったのが聞こえる。

「最後に私事ではございますが、この場を借りまして婚約が整いましたことを皆様にご報告させていただきます」

ざわ、と会場がどよめく。

これまで亮介の結婚の噂は社内中に広がっていたものの、本人が認める発言をすることもなければ、相手が誰なのかは憶測すら出てこなかった。

堅物と呼ばれる副社長が普段の冷淡なポーカーフェイスを崩し、表情を和らげて語る婚約者とはどんな女性なのか。人々の関心は極限まで高まり、会場内は静かな興奮に包まれている。

しかし凛の内心もまた、会場内とは違った意味で緊張が高まっていた。

(ここで婚約発表するなんて聞いてない……!)

驚きに亮介を見つめ続けるしかできない凛に、亮介はマイク越しに凛を呼んだ。