捨てられ秘書だったのに、御曹司の妻になるなんて この契約婚は溺愛の合図でした


「さて皆様、宴もたけなわではございますが、この後にご予定のある方もいらっしゃるかと思いますので、ここで中締めの挨拶を海堂副社長よりいただこうと思います」

今日の進行を務めている恵梨香の声に壇上へ視線を向けると、光沢のあるグレーのスリーピースのスーツにオレンジ色のタイとチーフを合わせた装いの亮介が、いつも通りのポーカーフェイスで登壇するところだった。

その堂々たるオーラは普段一番近くで仕える凛ですら圧倒され、瞬きも忘れて見入ってしまう。人の上に立つ者の風格というものが亮介にはあった。

「皆様、本日はご多忙の中、こうしてお集まりいただきありがとうございました。本日の当社五十周年の祝賀会は、日頃の皆様のお力添えに感謝する場として、また他部署との交流を深める場として開催いたしました。お楽しみいただけましたでしょうか」

低く芯のある声が会場に響き渡り、その場にいる人を魅了する。

亮介は新ブランドについても言及し、様々な苦難を乗り越えてようやく発表できた喜びや、これからオハイアリイをリュミエールの看板ブランドへ成長させるという意気込みを語った。

(本当に、無事にここまでこられてよかった……)

凛がこれまでのことを振り返りながら亮介の挨拶に聞き入っていると、ふと壇上の彼と目があった。