「お前が言う〝たった一度の失敗〟で、凛がどれほど傷ついたのか考えたことはあるのか」
「うるさい! あなたが出しゃばってこなければ、凛は僕のところに帰ってきたはずなんだ! 急に決まった結婚だって、きっと僕があんな女と結婚すると聞いた腹いせに違いないんだ! だから話し合おうと言ったんだ。予定通り僕と結婚して、こんな職場は辞めて一緒に転職しようと提案するはずだったのに……! 聞く耳を持たないから、だから僕は……っ」
「もういい」

絶叫するように話し続ける孝充の言葉を遮り、亮介のすぐ後ろで控えていた林田を振り返る。

「落ち着くまで警備室へお願いします」
「承知しました。申し訳ございません。私の監督不行き届きです」

長年秘書室長を務める林田は、いまだ精力的に活動している社長に仕え、仕事だけでなくプライベートもすべて管理しているため、秘書室ではなく社長の執務室にデスクを置いている。

目が届かなかったと頭を下げる彼に、亮介は首を振った。

「彼の処遇は追って連絡します。申し訳ないですが、今日はこれで」
「はい。社長には私から報告しておきます。ぜひ立花さんのところで行ってあげてください」

林田の言葉に頷き、協力してくれた秘書たちに丁寧に礼を告げると、亮介は凛の待つ自宅へと急いだ。