すべての感情を冷徹な副社長の仮面で覆い隠し、秘書であり婚約者でもある凛にさえ気取られないようにしていた。

(少しずつ心の距離が近付いたと思った途端、こんなことになるなんて。せめて彼にだけは、信じてると言ってほしかった……)

自分の心の奥底にある本音を自覚し、凛は思っていた以上に亮介に甘えているのだと気がついた。

彼ならば、無条件に自分を庇ってくれると無意識に考えてしまっていたのかもしれない。

亮介が凛との結婚を決めたのは、周囲の雑音から解放されて仕事に集中したいからだ。

(それなのに、妻になる予定の私がこんな風にスパイを疑われるなんて)

秘書としても結婚相手としても足を引っ張っている。

その事実が大きな渦となって凛の心に襲いかかり、社内では必死に我慢していた涙が溢れて止まらなかった。