あまりの出来事に、凛は絶句して立ち尽くすしかできない。クリエのプレスリリースに気付いた他の開発メンバーも慌てて重役フロアに上がって来ており、情報漏洩や産業スパイといったワードが飛び交い、その場が疑心暗鬼で騒然としだした。
「みんな落ち着け」
そんな状況の中、フロア全体に低く芯のある力強い声が響き渡った。
「犯人探しはあとだ。今は考えても仕方がない。とにかく情報を集めよう」
頼もしいその声に、淀んでいた空気が一瞬にして動き出す。
「既存の商品やターゲット層、売上やリニューアル後の展開、クリエに関する情報を手分けして集めてくれ。このプレスリリースだけでは対策の立てようがない」
「わかりました」
「立花、会議室を押さえて各方面に連絡して」
「はいっ!」
凛が急いで総務部の会議室予約システムを立ち上げようとすると、ちょうど社内メールが一通届いた。差出人の部分がフリーアドレスになっており、件名には【裏切り者の正体】とある。
いたずらメールにしてはタイミングがよすぎる。嫌な予感が胸を掠め、ぞわりと背筋に緊張が走った。
凛はゴクンと喉を鳴らしてそのメールを開封し、文面を目にした瞬間、息をのんだ。



