君に僕の好きな花を

「もしかして僕のこと、覚えてない?」

私の表情から察したのだろう、男性は少し悲しそうな顔をする。

「高校の卒業式の時、クローバーの栞を渡したんだけど……」

そこまで言われてようやくあの日のことを思い出す。都会での生活に忙殺され、埋もれてしまった青春のワンシーンだ。

「……もしかして、江戸川龍仁(えどがわりゅうじ)くん?」

「そ、そうだよ!江戸川龍仁!」

江戸川くんは悲しそうな表情から一転、まるで花が咲いたような笑顔になる。大げさなほど喜ぶ姿はまるで犬みたいだ。

「久しぶりだね。私、地元に帰って来たの成人式の時以来で……。あれ?成人式来てたっけ?」

「久しぶり。僕は成人式に行っていないから、佐倉さんに会うのは高校卒業以来だね」

「てことは十年ぶり!?すごいな〜……」

「元気にしてた?あんまりこっちに帰って来てないみたいだったから、みんな心配していたよ」

江戸川くんに見つめられて、私は横浜であったことを思い出してしまう。必死に目の前のことにしがみついて、憧れからは遠い日々だった……。