髪を念入りに梳かしてから、頭のてっぺんの部分にきらきらと輝くティアラを載せる。

煌くんたちが用意してくれた薄桃色をしたドレスは、もう身に纏っているので、身支度は一応完成した。



(うぅ〜、煌くんに緊張はいらないとは言ってもらったけどやっぱりちょっとどきどきしちゃうな…ん…?あれ、なんだったっけ…)



わたしの目線の先にあるのは、部屋の片隅でどこか所在なさげにしている、高校生が使うような紫色の定期が付いた通学用の黒いリュック。



(あれ、わたしあんなリュック持ってたっけ…?いつ、使ってたの…?というか、わたしってそもそも学校なんて行ってたっけ…?うぅ、思い出せない…でも、あのリュックはいつか見たことがあるような気がする…)

「苑ちゃーん、準備できた?」


眉間にしわを寄せて考え込んでいると、怜くんが部屋の外から声をかけてくる。



「っ、うん!もう出るね!」



今日は煌くんだけではなくて怜くんまで迎えに来てくれているらしい。

気持ちを固めてがちゃっとドアを開くと、そこにはいつものタキシードではなく、燕尾服を纏った二人が立っていた。

煌くんがわたしのドレス姿をまじまじと見つめてくる。


「苑、いつもにもましてすごく綺麗だ…」

「もーう、煌、それじゃプロポーズみたいじゃん!苑ちゃんも照れてないでこっち来て!」

(え…っ、わたし今もしかして顔赤くなってたの…!恥ずかしい…!)



煌くんをからかうような、怜くんのおちゃらけた言葉に動揺してしまう。



(でも…煌くんがいきなり真剣な口調であんな事言うから、びっくりしちゃうじゃん…)


手で頬を覆うようにして熱を冷ます。

なぜか怜くんがくくっと微笑んでいる。


「っ…怜、余計なこと言うな!苑、そろそろ行こう!」


どことなく気まずくなってしまった雰囲気を壊すように、煌くんがそう声をあげた。