「ふぅ、そろそろ踊り疲れた…」



俺__煌の目の前に立っている、美しい装いを身に纏った苑が少し息を荒くしながら言う。



「…そうか?俺はまだまだ踊れるけどな?苑が疲れたんなら、バルコニーにでも出るか?」

「うん、そうする…!」



苑がふっと俺に微笑みかける。



(可憐なその笑顔を、守りたい…。たとえ、俺たち(俺と怜)が作り上げた都合のいい夢のような世界の中でしか実現できなくても、それをやり遂げて見せる)



二人でバルコニーへと歩み寄っていく。



(でも、そのために俺たちが犯した罪を知らない、今みたいな苑の無邪気な笑顔を見ると、後ろめたくて胸が苦しくなる)



もっと他に道は、あったのではないか。

命まで奪わなくても、苑が現実世界で楽しく生きられる方法は、あったのではないか。

こんな嘘と虚構の世界で、生きながらも死んでいるような状態になるくらいなら、まだ辛い現実世界のほうが良かったのではないか。

これは、苑と一緒にいたかった自分の、勝手な押し付けがましい行いであったのではないか。

そう考えないときはない。

けれど、苑がこの屋敷を綺麗だと褒めるたびに、現実世界では辛そうにしていた苑が笑みを浮かべるたびに、どうしても苑の命を奪った挙げ句に現世の記憶さえなくしてしまった、という罪悪感が薄れていってしまう自分に、心から腹が立つ。



「あのさ、苑···苑はこの屋敷で、俺たちとずっと一緒にいたいって思ってくれてるか?」



バルコニーに設置されている木製の椅子に二人並んで腰かけながら、問いかける。

我ながら、少し声が震えているのが情けない。



「え?もちろんだよ!」

「本当に?…一生?」


苑の目を覗き込むように、そう尋ねる。

彼女は、少し驚いたように目を丸くするが、すぐにその表情は満面の笑みに変わる。



「…うん!三人でずぅっといられるなら、それでいいよ!」

「そうか__…」



そこで突然、隣にいる苑を腕で包みこみ、抱きよせる。



「わ…っ!」



苑の慌てた声がくぐもって聞こえてくるが、構わずに言葉を継ぐ。



「__なら、死んでも一緒だぞ?」



苑がもぞもぞと顔を出し、言う。



「もう、急に抱きしめられたら驚くよぉ…」



そして、くすっと笑いながら、続ける。



「もちろん、いいよ!」



苑の肩に顔をうずめる。

__もちろん、苑に、こんなに気持ちを昂ぶらせている俺の、幼い子供みたいに綻んだ顔を見られるのが恥ずかしかったからだ。



(苑が、そう言ってくれるのなら…俺もここまでしてよかったのかもしれない)



俺が君に恋をしてから何年もたった今、君を救えているのなら__。



(あの日は、雨が降っていたな…)