「美紅、お前が決めなさい」

え?と美紅は思わず聞き返す。

「わたくしが、ですか?」
「ああ、そうだ。お前が先日本堂さんを案内した。お前の話を聞いて、本堂さんは覚悟を決められたんだ。このお話を受けるのなら、お前が担当しなさい。ただ…」

そこまで言って視線を落としてから、紘は再び美紅を見据える。

「もしお前に、小笠原家を背負って本堂さんと手を組み、必ず成功させてみせるという覚悟があるならお受けしなさい。だが、中途半端な気持ちなら本堂家にも小笠原家にも迷惑をかける。今すぐお断りしなさい。どちらにしてもお前次第だ」

思わず顔を上げた伊織を、美紅はじっと見つめる。

大きな決断を迫らせてしまったことを詫びるような、心配そうな伊織の表情を、美紅は黙って見つめ続けた。

初めて会った日から今までの、伊織とのことを思い出す。

スポーツカーでお屋敷に行ったこと、バーで再会して、森の中のラウンジでピアノを弾き、一緒に話をしたこと、ガーデンレストランに案内し、特例子会社の話をすると、素直に反省の言葉をくれたこと。

信じてみたい、この人の夢を。
一緒に切り拓きたい、この人が進む道を。
それはきっと、自分にとっても大切な経験になるはず。

美紅は自分の心の中に、何かのスイッチが入るのを感じた。

「お兄様」
「ん?」
「やらせて頂けませんか?わたくしに」
「…覚悟はあるのか?美紅」
「はい。わたくしの出来る限りの努力をして、必ず小笠原家にとっても良い結果となるよう努めます」
「分かった。やってみなさい。私も協力は惜しまないよ」
「はい、ありがとうございます」

そして美紅は、肩を震わせて必死に何かを堪えている伊織に向き合う。

「本堂様」
「はい」
「精いっぱいやらせて頂きます。どうぞよろしくお願い致します」
「こちらこそ、どうぞよろしくお願い致します。ありがとう、本当に…。ありがとうございます」

声を震わせる伊織に、美紅は微笑んで頷いた。