「春樹ってほんといい音出すよね〜」
先輩が俺の指をじっと見つめながら言った。
「え?そーですか?」
自分ではあまり意識していないけど…。
「そうだよ!1000人に1人の逸材!!」
手を握りしめて推しを語るように身を乗り出す先輩。
「あはは…ありがとうございます…」
「トランペット100人と対決してもきっと勝てるよ!そのくらいの音色があるもん」
とりあえずお礼を言って、トランペットの調整を始める。
「春樹髪跳ねてるよ」
そう言い、由真先輩が俺の髪を撫でて。
「うわサラッサラ!羨ましい〜!!」
それはもうクラスの女子に嫌と言うほど言われた。
母さんが美容師で、色んなシャンプーが家に揃っているから、毎月違う種類を試してみてる。
今月は女子にモテるという謎のキャッチフレーズを持つ柑橘系の香り。
オレンジっぽい匂いがするらしい。
「ってかめっちゃいい匂いする春樹〜笑」
「それは変態、由真笑笑」
「春樹可愛い〜んだもん〜」
「ショタ好きだっけあんた」
「そんなことないよ〜」
「いやでも俺も春樹めっちゃ女子みたいな香りすると思ってました」
いきなり割り込んでくる鈴堂杞紗(スズドウキサ)。
一応同性の男だ。
「だよねぇ杞紗!笑」
「春樹めっちゃいい匂いっすよ。前通ったときの空気抵抗の風でふわっとくるんすけど、この前はバラみたいな甘い香りしました」
「ねぇ待って、杞紗の方が変態なんだけど」
き、気まずい…。
「ほらほら、練習するよ!」
パンパンッと手を叩く副部長の橘陽菜(タチバナヒナ)先輩。
「春樹も困るでしょ、由真がそんなに絡んだら」
「そっか!ごめん春樹」
「大丈夫です」
陽菜先輩に感謝して、パート練習を始めた。