俺はその日全力で走っていた。
今日はコンクールにでるメンバーを決める大事な日。
アンサンブルとも言う。
「っ、やっべぇー!」
遅刻だ遅刻だぁぁぁぁ!
今日は遅れたらまずいんだよ…!
遅れたらコンクールには出れない☆
それ以上に校庭を20周という恐ろしい刑罰があるんだ☆
校庭20周はよゆーだけど、コンクールに出れないはやばすぎる…!
必死に脚を動かして走る。
っしゃ、学校だっ!
正門をくぐり、昇降口で靴を履き替え、部室へと走る。
ガチャッ!
「はぁっ、おはよう、ございます…」
「春樹遅いー!」
「あと1分なんだけど…」
「あっぶねぇ〜」
部長の藤原由真(フジハラユマ)先輩が苦笑いしながら俺を見てくる。
「春樹くん…」
呆れ顔の同級生鶴義菜々美(ツルギナナミ)に満面スマイルを返す。
急いでイスに座り、トランペットの調整を始めた。
〜♪〜♪〜♪
よっしゃ。
バッチリだ!
吹部顧問の栄西晃(エイニシアキラ)が音楽室に入ってくる。
こいつは今年で48。
ハッキリ言ってじじいだ。
部員や生徒からは陰でアキラちゃんと呼ばれている。
「お前ら、準備はいいか?」
「はい!」
部員の返事が綺麗に重なる。
「じゃあ、早速始めるぞ。曲はなんだっけ」
おい。
お前指揮者だろふざけんな。
「『太陽』です」
冷静にズバリ、部長。
「わかった。伴奏は…明日葉先生、お願いできますか」
「あ、了解で〜す」
明日葉先生とは、この中学の数少ないお若い先生。
明日葉紅葉(アシタバモミジ)、23歳。
俺らと9個差☆
みんなから紅葉先生と呼ばれるほど人気の高い先生。
ピアノがバカクソ上手くて、校内1とも、小さい頃コンクールで1位をとったとも言われるほど。
紅葉先生がピアノのイスに座り、鍵盤に指をのせる。
部員達が、楽器を構える。
栄西が、タクトを振る。
演奏が、始まる。

無事に演奏が終わり、栄西はタクトを下ろした。
「んじゃあ、発表は明後日。今日はコンクール曲練習。各パートに別れて練習しろ」
「はい!」
いつもありがとう…。
そう想いを込めて、トランペットを撫でる。
「春樹ー!合わせるから来てー!」
「はい!」
先輩の声に返事をして立ち上がった。