「おい、春樹ー!遅いぞーっ!!」
「さーせんっ!」
同じトランペットパートの先輩に、大声で謝る。
ダッシュで走ったから、あっという間に追いつく。
「お前〜!何考えてんだ!コンサートに遅刻してくるとか、ヤバすぎだろッ!!」
う…。
指揮者の岡島(通称オカちゃん)に怒鳴られ、大人しく黙りこむ。
俺の名前は松山春樹、24歳。
今日は、コンサート当日。
「お前が居ないとこのコンサートどうなるか分かってるのか!?」
「終わる?」
「そうだ!!お前のトランペットパートが1番多いんだからな!!」
確かに。俺は小学生の頃から吹奏楽クラブ。
劇団ではそういう人は少ないらしい。
大体中学生くらいから始めるのがほとんど。
実際、俺の他に小学校からの人は数人しか居なかったし…。
ちなみに、スポーツも不得意ではない。
「ほら、最後の調整すんぞー」
佐渡泉(サワタリイズミ)さんにコツッと頭を叩かれた。
「はい!」
慌てて返事をして、控え室に走った。



「いや〜、緊張するな〜!なぁ、春樹」
「そうだな、綺良」
コイツは、俺の親友の明星綺良(アケボシキラ)。
何してても楽しいから、ずっと一緒に居る。
ちなみに、同じトランペット。
他にも同じ高校のやつらがいて、男の二宮蒼(ニノミヤアオイ)に、女子の美和海(ミワウミ)、鈴川知紗良(スズカワチサラ)、本間唯(ホンマユイ)。
蒼と海は俺と同い年、知紗良と結は25歳だ。
中学高校とライバルで、劇団で再開した奴もいるくらい。
「あ〜緊張してきたよ〜!………どうしよう、音がうまく出ないよぉ〜!!」
知紗良が泣きそうな顔で言う。
知紗良はこーゆーとこあるからとても年上には見えないんだよな…。
「ちさ!?えっと、えっと!どうしたらいいんだっけぇ!?」
結が焦ってオロオロする。
「うーんと…知紗良、ドーナツって10回言ってみて!」
「え?ド、ドーナツ!?」
ドーナツって…蒼、何考えてんだ…!?
頭でも打ったのか、、、?
「わ、わかったって!ドーナツ、ドーナツ、ドーナツ…」
知紗良は本当にドーナツを10回言い始めた。
「ドーナツ、ドーナツ!!」
言い終わった知紗良は担当のトロンボーンを手にして、口にあてると。
「♪〜」
トロンボーンの綺麗な音色が控え室に響く。
「えぇ!?」
「ウソっ!スゴい!!」
「知紗良、良かったね!」
みんながザワザワとし始めた時。
「良くない!!」
にこっと笑う蒼に、オカちゃんがびしっとチョップを入れる。
「いつっ…」
「鈴川!どんな時でも安定して音が出るようにと言ったじゃないか!」
「す、すみませ…」
ビクッと震える知紗良。
「岡島さ〜ん!少しいいですか?」
小賀美紅さんが、助け舟を出すようにドアからひょこっと顔を覗かせた。
美紅さんは有名なヴァイオリ二ストで、今回特別にゲストとして入ってくれるんだ。
「あ、はい!」
オカちゃんは満面の笑みで走って行く。
…きっしょ。
オカちゃんは今年で39歳。
美紅さんは23らしい。
…ロリコンじゃんきも…。
オカちゃんから解放された知紗良は、ふぅっとため息。
「も〜オカちゃんってば話長すぎ細すぎ!!」
唯がぶぅぶぅと文句を言った。
「コンサート前だからピリピリしてるんだよね、ごめんね」
劇団の中で1番所属歴が長い石町美玲さんが唯に向かって謝る。
「い、いや美玲さんのせいじゃないですって!」
唯がぶんぶん手を振りながら、違うとアピールしていた。
おいおい、先輩に謝らせるなって…。
半分呆れながら唯を見つめる。
「何、春樹」
「なんでもない」
首を横に振る。
俺は、首にネックレスをつけた。
これは、俺の好きな人…いや、俺の大切な人から貰った物。
ネックレスにはエメラルドが付いてる。
1回なんで緑色の宝石なの?って聞いたら、来くんの誕生石で、エメラルドって言うんだよと笑って言われた。
俺は5月生まれだから、「エメラルド」という緑色の宝石が誕生石らしい。
大切なことがある時などにお守り代わりにいつも付けている。
「春樹ー!あと15分したら出番!!」
やっべ!
「今行くー!!」
俺は慌てて廊下を走って行った。