「というわけで、ウッキが調べた情報をノンノにも教えるね」

 どこからか、分厚い書類の束を取り出して、そりの上にドサリと置く。

「ええっ、こういうのがあるなら先に教えてよ! ていうか何この量!」

 私が理玖(りく)君の配達で調べた時とは比べ物にならないほど多いんだけど!?

「だ、だって。やっぱりノンノには荷が重いかもしれないから、表のプレゼントだけで先に帰して、あとはウッキがやろうと思って……」
「そうやって気を(つか)ってくれるのは嬉しいけど、でも、私だってサンタなんだから!」
「う、うん。ごめんねノンノ。一緒に頑張ろうね」

 とはいえ。
 多すぎる。
 えー、これ全部読むの? それだけで日が暮れちゃいそう。そう思っていたら、

「全部読むのは大変だから、特にウッキが気になってるところを言うね」

 と助け舟を出してくれた。

 アドじいが特に気になったのは、三尋木(みよぎ)君――というか、三尋木家のクリスマス事情だ。毎年どんな風に過ごしてきたか。それを彼が産まれてからの十四年分調べたらしい。

「家族三人でクリスマスを過ごしたのは駿介君が七歳の時までだったみたい。駿介君が五歳の時にお父さんが会社を立ち上げて忙しくなって、それで、お母さんはネットに上げたアレンジレシピが注目されるようになったらしくてね」

 それまでは、駿介君の生活はここまで裕福ではなかったらしい。といっても、普通のサラリーマンのレベルって感じで、今日食べるものもない! みたいなことではなかったんだけど。

 お父さんの会社はどんどん大きくなって、お母さんはテレビに引っ張りだこになるくらい有名になった。駿介君が寂しくないよう、家には常にお手伝いさんがいて、家庭教師の先生もいてくれて、ご飯も毎日ご馳走。おもちゃだって欲しいものはみんな買ってもらえる。習い事だって、やってみたいと三尋木君が一言言うだけで、道具はすぐにそろえられた。飽きたと言って辞めても怒られることもない。

 ただ、家族の団らんの機会はすごく減った。最初は、誕生日やクリスマスくらいはどうにか時間を作ってたみたいだけど、それも難しくなった。学校行事は、お手伝いさんが代わりに来る。毎回違う人だから、私達は顔も覚えていない。

 クリスマスは、お母さんが外のスタジオで作ったオードブルとケーキが届けられて、駿介君はそれを一人で食べてた。小学生の頃はお手伝いさん達も一緒にいてくれてたみたいだけど、中学生になってからは、そっちにも家族がいるでしょって断るようになったらしい。

 朝から晩までパーティーなんてしてなかったのだ。いまさら友達を呼んだりなんてできなかったのだろう。一人ぼっちでゲームをしたり、テレビを見たりして過ごしていたんだ。

 トランプ、すごろく、ボードゲーム、それからそれから。

 きっとこれは全部、小さい頃に家族でやったゲームだ。三尋木君はきっと、クリスマスをまたそうやって家族三人で過ごしたいんだ。

「アドじい、三尋木君は!」

 私が寂しいわけじゃないのに、何でか涙が込み上げてきて、思わずギュッと手を強く握る。

「ぱ……、パパとママと三人で過ごしたいんじゃないかな。あのゲームでみんなで遊んだりして」

 泣くのをぐっと(こら)えてそう言うと、アドじいはにこりと笑った。

「ウッキもそう思う」
「じゃあ、私達(サンタ)の仕事は」
「駿介君のパパとママをここに連れてくること。それで三人でクリスマスを過ごしてもらうんだ!」

 さっと差し出された大きな手をギュッと握る。

「頑張ろう、ノンノ! 力を合わせて駿介君にぴったりのプレゼントを渡そう!」
「うん!」

 握った手を高く上げると、そこに三人の手が重なる。トナカイ達だ。

「俺達のことも忘れんなよな、おやっさん」
「僕達の力も絶対に必要ですよね!?」
「微力ながら、お手伝いさせていただきます」

 その言葉にアドじいが目を細めてふぉっふぉと笑った。目の端がちょっと光っていたように見えたのは気のせいじゃないかも。

 さて、改めて、『毎日サンタ月曜日営業所』の総力を結集して三尋木君のプレゼント、つまり彼のパパとママをここに連れてくることになったわけだけど。

 問題は、どうやって連れてくるか、だ。

「それってさ、例えば、三尋木君が熱を出したから帰って来て、って電話するとかじゃ駄目なのかな」

 そりゃあ二人だって、好きで三尋木君を一人ぼっちにさせてるわけじゃない。仕事があるのだ。それくらい私にだってわかる。だけど、自分の子どもが倒れたら、絶対にそれどころじゃない。ウチのパパとママならすっ飛んでくる。まぁ、ウチのママは専業主婦だから家にいるんだけど。

 するとアドじいはふるふると首を振った。

「その電話は誰がかけるのかな? 学校がある日なら先生の振りをしてかけられるけど、いまは冬休みだよ?」
「あっ、そっか! ……えっと、じゃあ、三尋木君?」
「駿介君がかけたことにするとしても、二人が帰ってきた時に嘘だってバレちゃうんじゃない?」
「そ、そっか……。これは駄目だね」

 しゅん、と肩を落とすと、「で、でも! アイディアを出してくれるのはとってもありがたいからね! 思いついたらどんどん言ってね!」とアドじいがアワアワする。その言葉に励まされて、うん、と頷いたはいいけれど、はっきり言って、もう全然浮かばない。どうしたら三尋木君のパパとママはここに帰ってくるだろうか。

 そりの上でアドじいと、ううんううんと唸っていると、「なぁ」とレラが小さく手を上げた。何? 何かいい案でもある? この際、猫の手でも――いや、トナカイの手でも借りたい気分。

「そいつらの仕事がなくなればいいんじゃねぇの?」
「なくなれば――って、物騒な言い方するなよ! 『今日の』仕事、だろぉ?」
「でもたしかに、することがなくなれば帰って来るのではないですか?」

 難しい顔をして唸っていたサンタチームとは裏腹に、トナカイチームは何やら楽観的だ。

「それはそうかもしれないけど……」

 そんな簡単に言わないでよね、と言おうとした時だ。

「それだ! さすがウッキのトナカイ達は賢いねぇ!」
 
 と、アドじいが膝をポンと叩いた。