とにかく、売り上げのことはまた今度ちゃんとお話するから、と無理やり話を畳まれてしまい、私は日課であるトナカイの散歩を命じられた。
「今度って言われても、次の配達が最後かもしれないのに」
そんなことをぶつぶつ言っていると、厩舎の前でそりを磨いているワッカを見つけた。
「あれ、花ちゃん。報告書は終わったの?」
にこにこしながら丁寧にワックスをかけているその隣にしゃがみ込んで、それがさぁ、とさっきの話をすると――、
「は、はぁぁぁぁ!? 売り上げが二倍?!」
「そうみたい。でも、千円が二千円になるとか、そういうことでしょ? すごいかもだけど、そんなに隠すほどかなって」
「は、花ちゃん花ちゃん! あのね、サンタの売り上げが千円とかのわけないからね?! そりゃ僕らだってちゃんとした額を聞いてるわけじゃないけど、少なくとも、千円はないよ! もっと! もっとあるから!」
「そうなの?!」
えっ、もしかしてめっちゃすごい?!
「こっわ、これがビギナーズラックってやつ……?」
ワッカは何やら震えている。
「いやでも、マジですごいよ花ちゃん。この調子なら思った以上に早くあいつらこっちに戻せるかもだよ!」
「ほんと!?」
ほんとほんと、とワッカは嬉しそうにシャッシャッとそりの底にワックスをかける。
「私ね、実際に仕事してみるまで、サンタの仕事ってもっと簡単なんだって思ってた。プレゼントっておもちゃ屋さんとかから買うものだと思ってたし」
「そうだよね。普通のサンタのイメージってそうかもね」
「でもさ、まさか『どれどれメガネ』で見える『欲しいもの』の奥に、ほんとのほんとに欲しいものが隠れてるなんて、思わなかった」
でもたしかに言われてみればそうだ。『欲しいもの』にはきっと理由がある。可愛い服が欲しいのは、その服が欲しいだけじゃなくて、それを着て可愛い自分になりたかったり、可愛いねって言われたかったりするからだろうし。
もちろん、そんな理由なんかなくて、ただ単に「その服が欲しい!」っていう人もいるんだろうけど。
「でも、それじゃあさ、ここの売り上げが悪いっていうのは、アドじいはそういう、奥にあるプレゼントに気づけなかった、ってことなのかな」
メガネで見える、表のプレゼントだけを渡して、それで終わりにしてるってことなんだろうか。だとしたら、なんか悲しいな。そりゃあ表のプレゼントだってその人が欲しいものには変わりはないんだけど。
膝を抱えて、そんなことをぽつりと言うと、ワッカは手に持っていたワックスを置いて、その代わりに私の手を取った。
「そんなことないよ、花ちゃん。違うんだよ。アディ様はね、むしろ逆なんだ」
「逆?」
「そう、その人の為にって、奥の奥にある『本当に欲しいもの』を渡そうとして、それで、たくさん道具を使ったり、時間がギリギリになっちゃったりするから――」
「道具をたくさん使ったら、使った分だけ引かれちゃうんじゃ」
「そうなんだ。他の営業所はね、その辺上手いんだよ。だって、別に表のプレゼントでも問題はないんだ。道具の使用をなるべく抑えて、手早くぱぱぱっと終わらせた方が、結果として売り上げは良かったりするんだよ」
アディ様、優しいし一生懸命なんだけど、ちょっと不器用なんだよね、と言って、ワッカが笑う。
「でも、そういうアディ様だから、僕達、みんな大好きなんだよ。もちろんちび達もね。だから僕達、なんとしてもあいつらの帰る場所を守らなくちゃって。だけど僕達じゃ駄目なんだ。どんなに励ましても、アディ様、毎日しょんぼりでさ。だからさ、花ちゃんはすごいよ」
花ちゃんが来てから、アディ様、にっこにこだもん! と話すワッカの顔もにこにこだ。
「アドじい、もっと元気になるかな? これからもサンタ続けると思う?」
「僕はね、そう思う。たぶん、僕だけじゃなくて、レラとフミもそう思ってるよきっと。どんな結果になるかはわからないけどさ。だから、クリスマスの配達、アディ様と頑張ってみようよ。もしかしたら、また花ちゃんの直感でビビビっとうまくいくかも!」
「そんなうまいこといかないかもよ? でもまぁ、チャンスはその日だけなんだし、うまくいってくれないと困るんだけどさ」
そう、うまくいってくれないと困るのだ。
チャンスはもうクリスマス当日しかない。
やれるかな? なんて考えてる場合じゃない。やるんだ。
色々なことがありすぎるからだろうか、ここへ来てから、何だかずっと心臓がどきどきしてる気がする。アドじいが嬉しそうにしていることも、理玖君にぴったりのプレゼントをあげられたことも、それによって売り上げ(ほんとの売り上げじゃないけど)がどどんとアップしたことも、それでたくさん褒められたことも、何もかも全部がとにかく私の心をどきどきさせるのだ。
「今度って言われても、次の配達が最後かもしれないのに」
そんなことをぶつぶつ言っていると、厩舎の前でそりを磨いているワッカを見つけた。
「あれ、花ちゃん。報告書は終わったの?」
にこにこしながら丁寧にワックスをかけているその隣にしゃがみ込んで、それがさぁ、とさっきの話をすると――、
「は、はぁぁぁぁ!? 売り上げが二倍?!」
「そうみたい。でも、千円が二千円になるとか、そういうことでしょ? すごいかもだけど、そんなに隠すほどかなって」
「は、花ちゃん花ちゃん! あのね、サンタの売り上げが千円とかのわけないからね?! そりゃ僕らだってちゃんとした額を聞いてるわけじゃないけど、少なくとも、千円はないよ! もっと! もっとあるから!」
「そうなの?!」
えっ、もしかしてめっちゃすごい?!
「こっわ、これがビギナーズラックってやつ……?」
ワッカは何やら震えている。
「いやでも、マジですごいよ花ちゃん。この調子なら思った以上に早くあいつらこっちに戻せるかもだよ!」
「ほんと!?」
ほんとほんと、とワッカは嬉しそうにシャッシャッとそりの底にワックスをかける。
「私ね、実際に仕事してみるまで、サンタの仕事ってもっと簡単なんだって思ってた。プレゼントっておもちゃ屋さんとかから買うものだと思ってたし」
「そうだよね。普通のサンタのイメージってそうかもね」
「でもさ、まさか『どれどれメガネ』で見える『欲しいもの』の奥に、ほんとのほんとに欲しいものが隠れてるなんて、思わなかった」
でもたしかに言われてみればそうだ。『欲しいもの』にはきっと理由がある。可愛い服が欲しいのは、その服が欲しいだけじゃなくて、それを着て可愛い自分になりたかったり、可愛いねって言われたかったりするからだろうし。
もちろん、そんな理由なんかなくて、ただ単に「その服が欲しい!」っていう人もいるんだろうけど。
「でも、それじゃあさ、ここの売り上げが悪いっていうのは、アドじいはそういう、奥にあるプレゼントに気づけなかった、ってことなのかな」
メガネで見える、表のプレゼントだけを渡して、それで終わりにしてるってことなんだろうか。だとしたら、なんか悲しいな。そりゃあ表のプレゼントだってその人が欲しいものには変わりはないんだけど。
膝を抱えて、そんなことをぽつりと言うと、ワッカは手に持っていたワックスを置いて、その代わりに私の手を取った。
「そんなことないよ、花ちゃん。違うんだよ。アディ様はね、むしろ逆なんだ」
「逆?」
「そう、その人の為にって、奥の奥にある『本当に欲しいもの』を渡そうとして、それで、たくさん道具を使ったり、時間がギリギリになっちゃったりするから――」
「道具をたくさん使ったら、使った分だけ引かれちゃうんじゃ」
「そうなんだ。他の営業所はね、その辺上手いんだよ。だって、別に表のプレゼントでも問題はないんだ。道具の使用をなるべく抑えて、手早くぱぱぱっと終わらせた方が、結果として売り上げは良かったりするんだよ」
アディ様、優しいし一生懸命なんだけど、ちょっと不器用なんだよね、と言って、ワッカが笑う。
「でも、そういうアディ様だから、僕達、みんな大好きなんだよ。もちろんちび達もね。だから僕達、なんとしてもあいつらの帰る場所を守らなくちゃって。だけど僕達じゃ駄目なんだ。どんなに励ましても、アディ様、毎日しょんぼりでさ。だからさ、花ちゃんはすごいよ」
花ちゃんが来てから、アディ様、にっこにこだもん! と話すワッカの顔もにこにこだ。
「アドじい、もっと元気になるかな? これからもサンタ続けると思う?」
「僕はね、そう思う。たぶん、僕だけじゃなくて、レラとフミもそう思ってるよきっと。どんな結果になるかはわからないけどさ。だから、クリスマスの配達、アディ様と頑張ってみようよ。もしかしたら、また花ちゃんの直感でビビビっとうまくいくかも!」
「そんなうまいこといかないかもよ? でもまぁ、チャンスはその日だけなんだし、うまくいってくれないと困るんだけどさ」
そう、うまくいってくれないと困るのだ。
チャンスはもうクリスマス当日しかない。
やれるかな? なんて考えてる場合じゃない。やるんだ。
色々なことがありすぎるからだろうか、ここへ来てから、何だかずっと心臓がどきどきしてる気がする。アドじいが嬉しそうにしていることも、理玖君にぴったりのプレゼントをあげられたことも、それによって売り上げ(ほんとの売り上げじゃないけど)がどどんとアップしたことも、それでたくさん褒められたことも、何もかも全部がとにかく私の心をどきどきさせるのだ。