道具の使い方をルミ君に教えてもらい、いざプレゼント開始!
 
 どうやらこの『かゆいところにハンド』は当たり前だけど、ただのおもちゃではなかった。

 なんと、その先端の手にも感覚があるのだ。試しにワッカの背中を(つつ)いてみると、まるで実際に自分の手で触ってるみたい。それに、操作自体は持ち手を握るだけなんだけど、その握る強さと、頭に思い描くイメージで細かい作業もできたりする。

 さらに――、

「壁や窓も通り抜けられるの?! 長さも自由自在?!」

 ルミ君の説明によるとそうらしい。さすがはサンタクロースの秘密道具!
 だから、家の外からでも理玖君の積み木遊びのサポートができるというわけ。どうやら私は、理玖君が積み木を上手に『自分の手で』積み上げられるように、この『かゆいところにハンド』を使って手助けすればいいみたい。

 もう全然思い描いてたサンタクロースのプレゼントじゃないんだけど、本当にこれでいいのかな?

 そう疑問に思うけど、いまはそんなことを考えている場合ではない。やらないと! 待ってて理玖君! お姉さんが君の『欲しいモノ』をプレゼントしてあげるからね!


「……おい、まだかよ」
「ちょっとレラ、動かないで!」
「俺は動いてない。お前がふらふらしてるんだろ」

 私はいま、トナカイ姿のレラの上に座っている。
 さすがに持ち上げてもらいながらの作業は難しかったのだ。それにたぶんレラも大変そうだし。

 それで、トナカイ(僕ら)の上に乗ればいいんじゃない? とワッカが提案してくれたのだ。そこへ、それを押しのけて、「俺が一番デカいんだから、俺に決まってる」とレラがしゃしゃり出てきたのである。たしかにこの中ではレラが一番大きいし、と思って、背中に横座りしてるんだけど、やはり生き物だから、ベンチとは訳が違う。本人は動いているつもりはないんだろうけど、何だかふわふわしていて不安定なのだ。

 それで、どうにか理玖君が積んだ積み木を彼に気づかれないよう、さりげなーく、ちょっとずーつ調整して、まっすぐ積み上げられるように手助けしているというわけである。

「頑張れ花ちゃん! いい感じだよ!」
「これは最高記録なのでは?! あと一つですよ!」

 この『かゆいところにハンド』、さすが名前の通り『かゆいところに手が届く』というか、思った以上に繊細(せんさい)な動きができるし、めちゃくちゃ軽いから全然疲れない。それでも相手は一歳半の子ども。せっかくいい感じで積み上げても、どたどたと足を踏み鳴らしたり、身体がぶつかったりしちゃって、せっかくの塔は、いいところでガラガラと崩れてしまう。

 それでもあきらめずに何度もトライするところを見ると、やっぱり彼はどうしてもこれを高くきれいに積みたいのだろう。

 そしてついに、その時は来た。
 理玖君は、手持ちの積み木をすべて積んだのだ! もちろんその陰にはサンタクロースであるこの私の協力もあるわけだけど!

 理玖君は、ぱちぱちと手を叩いてとっても嬉しそうだ。その場で何度も足を踏み鳴らして、大興奮である。もちろん、その足踏みでこれが倒れたら大変だから、そこは私がちゃんと支えてけど。

 すると彼は、何かを思い出したようにくるりと回れ右をした。えっ、もうこの積み木おしまいなの? あんなに頑張ったのに、積み終わったらおしまい?
 
 そう思ってちょっと寂しく思っていると――、

「まま、まま」

 とたとたと、可愛らしい足音を立てて、部屋の奥へと走っていく。そうか、ママに見せたいんだね。大丈夫、お姉さんずっと押さえてるから、ママ呼んどいで!

「……おい、何が起こってるんだ。まだか」

 窓に対して横向きになっているレラは、家の中の様子が見えない。首を動かせば見えるんだろうけど、それで私の操作に支障が出たらと思うと動けないみたい。

「理玖君、ママ呼びに行ったみたい。見せたいんだと思う」
「ああ、そういうのは『大事』だな」
「大事? 何のこと?」
「それは――」

 とレラが続きを話そうとした瞬間。

「あっ」

 そう言ったのは、ワッカだったか、それともフミだったか。それとも私だったかもしれないけど。

 ママを連れてきた理玖君は「あら、りっくん上手に積めたわね」というその言葉を聞いて、にっこりと満足気に笑った後、その積み木を壊してしまったのだ。

 いくら私が支えているといっても、壊すつもりで手を出されたら、それを阻止することは難しい。

「嘘でしょ。せっかく積んだのに」

 無残にも散らばった積み木を見て、思わずそんな言葉が口から出る。『かゆいところにハンド』は窓を通り抜けているけど、さすがに私のこんな小さな声までは届かない。

 がくりと肩を落とし、『かゆいところにハンド』を引き抜こうとすると、

「おい、待てチビ」

 それを止めたのはレラだ。

「まだ終わってない。抜くな」
「は?」
「そうだよ花ちゃん。これからだよ」
「ここからが一番大事なんです」

 トナカイ達が口々に言う。ここから? どういうこと? と視線を上げると、隣に座るママの方をちらちらと見ながら、再び積み木を積み始めている理玖君がいた。

「そうか、積むところをママに見てもらいたいんだ」

 丸い目をぱちぱちと瞬かせ、むちむちのほっぺを赤くして、ふんふんと荒い鼻息まで伝わってくるようである。彼はいま真剣なのだ。大好きなママに、自分のすごいところを見せるために。

「よっしゃ、わかったよ理玖君。私がついてるからね! あきらめずに頑張ろうね!」

 理玖君につられてか、私の鼻息までふんふんと荒くなってしまったけど、こういう時真っ先に茶化してきそうなレラは、何も言ってこなかった。

 そして、やっぱり何度かの失敗を経て、それはやっと完成した。

「すごいわ、りっくん」

 ママは隣でぱちぱちと手を叩き、理玖君の頭をなでた。理玖君はそれはもう満面の笑みで、やっぱり足をどたどたと踏み鳴らしている。あっ、あんまり揺らさないで! また倒れちゃうから!

 まぁ、とにかくこれでプレゼントは終了かな? そう思って、ふぅ、と息を吐いたその瞬間。

 理玖君は再びそれを壊した。

「は?」