私の名前は神居岩(かもいわ)暖乃(のの)。東京に住む、普通の中学二年生だ。

 だけど、やっぱり『普通じゃない』ところはある。何だ、あるんじゃん、って思ったかもしれないけど、ごめん、お願いだから最後まで聞いて。

 何が『普通じゃない』かと言うと――、


「ねぇ暖乃。今年の冬休みもおじいちゃん(ウッキ)のところに行くのよね?」
「うん、もちろん! だって、十四歳になったら、『仕事』を手伝わせてくれるって約束したんだもん」
「おじいちゃんに迷惑かけないようにな。それとあと、くれぐれも怪我をしないように。あっ、それからちゃんとあまり冷たいものばかりを食べないように。それからそれから――」
「もうパパは心配しすぎ!」
「だ、だって……」

 しょん、と肩を落とすパパに「パパはそろそろ子離れした方がいいんじゃないかしら」と、ママが優しく背中を(さす)る。パパは「そんなぁ」と泣きそうな顔になっているけど、ママの言う通りだよ。たしかに私はまだ子どもだけど、そこまでベタベタされるのはちょっとね。

 まだうじうじと「昔はパパ大好きって言ってくれたのに」だの何だのとしょげるパパをぼぅっと眺めていると、電話が鳴った。

「あっ、噂をすれば、ウッキじゃないかしら」

 いつもこれくらいになったら確認の電話をくれるものね、とママが立ち上がる。

 ちなみにこの『ウッキ』というのは、フィンランド語で『おじいちゃん』という意味だ。ママのパパ、つまり私のおじいちゃんはフィンランド人なのである。名前はアードルフ。私は『アドじい』って呼んでる。

「はい、神居岩です。あら、フミ? 今年も暖乃をお願いね。――え? ええ、うん。えっ、それ本当? 大丈夫なの? うん、うん。わかった。それじゃあ迎えはいつものところで、うん、わかった。それじゃよろしく伝えておいてね」

 通話を終えたママが、受話器を持ったまま、こちらを見た。そして、私に向かってこう言った。

「暖乃、ウッキ、『サンタ』辞めちゃうかも」
「――はあぁ?!」

 そう、私の『普通じゃないところ』、それは、おじいちゃんが『サンタクロース』という点だ。いやいや、本物本物。ほんとにほんとのサンタクロース。ちょっとふっくらしてて、真っ白いふっさふさのおヒゲもあって、真っ赤なサンタスーツを着て、トナカイの引くそりに乗って空も飛ぶ。ほんとのほんとのサンタクロース。

 ただ、みんなの想像している『サンタクロース』とはちょっと違うかもだけど。だけど、とにかく本物のサンタクロースなのだ。

 だけど、辞めちゃうかも、ってどういうこと!?

 小さい頃から、長期休みの度にアドじいのところに行って、トナカイ達と遊んだり、空飛ぶそりに乗せてもらったりしてた。それで、私が十四歳になったら、仕事を手伝わせてくれるって約束をしていたのに、どうして?!

 アドじいに仕えているオストナカイのフミからの話によると、直接みんなに「辞めたい」と言ったわけではないらしい。ただ、最近何やら元気がなくて、食欲も落ちている。詳しいことはそっちに行った時に話してくれるみたいだけど、どうやら秋ごろにちょっとしたトラブルがあったんだって。それでもその時はまだ元気だったらしいんだけど、最近になって急に元気がなくなったのだとか。

「それでね、暖乃に力を貸してほしいって」
「私? 私に何かできるかなぁ」
「フミが言うにはね、たぶん色んなことがあったから、ちょっと気持ちが疲れちゃったんじゃないか、って。サンタ辞めちゃうかも、っていうのは、フミの早とちりだと思うわ、ママ。だから暖乃の元気をお裾分(すそわ)けするのよ」
「元気をお裾分け、かぁ。まぁそれくらいならできる、かな?」

 とにもかくにも行ってみるしかない。
 アドじいがどうしてもどうしてもサンタを辞めたいって言うなら仕方ないけど。でも、私はまだまだアドじいにサンタ辞めてほしくないよ。だって、アドじいいつも言ってるじゃんか、「サンタはね、むしろこの年になってからが本番だからね」って。サンタの寿命は人よりもずっとずっと長くて、アドじいのパパもおじいちゃんだって現役のサンタクロースだ。

 待っててね、アドじい。
 何があったか知らないけど、私が元気をお裾分けしに行くからね!