あいつの腹に日下さんの赤ん坊がいると知ったときも、大して驚きはなかった。男と女だ、不思議はない。・・・ただ。

『俺と結婚しろ』

自分の口から飛び出した科白を一瞬、自分で疑った。結婚になんの意味がある?

あいつにとって、俺は寝床と餌をくれる世話係だ。婚約を仕組んでみたところで、親兄弟の前でも相変わらず職場の人間扱い、日下さんに甘えてみせるような素振りを演じることもなかった。

赤ん坊ができた辻褄を合わせるには結婚が一番合理的だ。頭ではそう理解していた。一生俺に縛り付ける手段だから迷わなかった。日下さんに唯一勝てる優越感に酔いたかった。理性もクソもない。

あいつの前では吸わない紫煙を遠慮なく逃す。

「・・・眼中にもないってのにな」

滑稽すぎて笑えた。







今日、俺は惚れた女と結婚した。
手に入れた。
一生俺に惚れない、殺したいほど可愛い女を。


FIN