外の空気は、まだまだとても冷たかった。
 いくら着こんでも、野晒しの顔や手元は、やっぱり寒い。

「ほい、これ」

 投げて寄越されたのは、ホットの缶コーヒー。近くに見つけた自販機から買って来たらしい。
 短く礼を言って一口、喉へと送って息を吐く。白く温かなそれは、目の前までふわりと漂ってすぐに、空気へと溶けた。
 クレープ屋までは、佳乃の家から徒歩で三十分ほど。温かい飲み物を両手で掴んで暖を取りながら、私たちは道を行く。
 ここってこうなってたんだ。あそこは随分と変わったなあ。そこにあるのって何だっけ。
 そこかしこに目を向けては、懐かしそうに話す佳乃。

 しかし、子どものように無邪気にはしゃいでいる、という訳ではないと思う。佳乃のことだ、私が全然自分から話し出さないから、気を遣っているんだろう。
 けれど、別にそれはわざとらしくなく、ともすれば佳乃のいつも通りのテンションであるとも思える。
 私が答えればそれにまた会話を繋げて、全くの無言になれば、それを呑んで。信号機で足止めをくらった時なんかは、鼻歌なんかで時間を潰している。
 私だけでない。誰か困っていたり、悩んでいて神妙な面持ちになっているからと言って、自分までそれと同じように暗くなったりはしない。いつも通りの明るい表情で寄り添ってくれる。佳乃は、そういう性格なのだ。

「あ、そうだ陽和」

 ふと、佳乃が口を開いた。

「え、何?」

「――ううん。今度の数学の課題なんだけどさ。アレ分からないところがあったから、今度教えてくれない? 確かもう終わったって言ってたよね?」

「あぁ、うん……分かった」

 何だ、そんなことか。
 身構えてしまったものだから、何だか拍子抜けしてしまう。

 ただ……少し、安心もした。