翌日。
 母の帰宅日にも関わらず、私は今日も佳乃の家へとやって来ていた。

 涼子さんには『テスト勉強会』だと嘘を吐き、親元を離れて単身暮らしている友人の元へ。
 私は嘘を吐くのが下手だ。きっと誤魔化しきれてはいないことだろうけれど、特別言及してこなかったことには感謝しかない。
 何かを察したのか、あるいはただの優しさか――いずれにしたって、下手にずけずけと踏み入ろうとはしない涼子さんの性格は、大変にありがたいものだった。

 そんな佳乃の家にて、私は事の全てを話して聞かせていた。勿論、勉強道具など一つも広げてはいない。
 私が話している間、佳乃は他に目をやることなく、真剣に聞き続けていた。
 夢の中での出来事を話していた時とはまた違った、とても真面目な面持ちで。
 誰に打ち明けるべきか、相談すべきかと悩んでいた昨夜、真っ先に思い浮かんだのが佳乃の顔だった。
 事の内容が母絡みである以上、母にはまず話せない。涼子さんにも話せないと思ったのは、それを今まで隠していた人物の一人であろう可能性があるから。
 唯一『親友』だと呼べる佳乃が、一番良かったのだ。情に厚く、また聞いた話を自身の内にのみ仕舞っておける性格だ。

「なるほど。あのお母さんが、ねぇ……」

 一通りの話を聞き終えた佳乃が、眉根を下げる。
 佳乃は母と何度か会っていて、私も色んな話を聞かせるものだから、ある程度のことは知っている筈だ。以前佳乃が「強くてかっこいいお母さんだね」と言っていたこともある。
 だからこそこの話は、佳乃にしてみても、とても意外なことだったのだろう。

「私、知らなった……お母さんのことも、陽向くんのことも。お父さんのことだってそう。私、どうすればいいのかな……」

 弱く、そんな言葉を吐いた。
 大きく溜息を吐く。そんな時、目を伏せて黙ったままだった佳乃が口を開いた。

「――よし、出かけよっか! ほら、この間丁度、新しいクレープ屋台が出来たって二人で話してたでしょ?」

「えっ⁉ で、でも……」

「良いからほら、早く支度する! 四十秒ね!」

「わっ、ちょ、引っ張らないでってば…!」

 抵抗虚しく、私は言われるがまま、されるがままに、出かける準備を整えた。