「……知らない。そもそも教育実習生なんてきてたんだね」
「たった二週間は短いよねぇ」
「でもさ、じつは、憧れるんだよね〜。先生と学生の恋愛って。小説とか映画でよくあるじゃん。ほら、この前のドラマも教育自習生と生徒の純愛だったし。なんかロマンチック……」
「優香、いい方がエロい」と真希。
「私も、パス。それ犯罪だよ」と美結。
「それは、やべぇ夜部せんせいだからでしょっ」

 ——盛り上がっていく会話に取り残されている気がする。
 直は、自分がこの場に居続けなければならない理由がみつからない。椅子から腰をそっとあげた。

「えっ、直どしたー?」
「ちょっと……トイレ」
「直、だいじょぶ?」
「胃下垂《いかすい》めー。うらやまし。それ以上痩せるなよー」と、優香は全然心配ではなさそうだ。

 教室をあとにした直は、胸の奥にあった風船から一気に空気が抜けた。彼女はまるで、おいしくないものを食べたような顔でとぼとぼ歩く。

 女子トイレの鏡に映る顔をじっと見つめていると、背後にひとりの男子が立っていることに気がついた。