青を溶かす




泣きそうになるのを、堪えるしかなかった。きっとそれに美澄は気づいていた。だからこそ、何も言わずに黙っているのだと思う。


沈黙が続く中、空を仰いだ。

青空がぼやけて見えるのがもったいない。こぼれる前に、目の縁を人差し指でなぞる。







「……美澄」

「ん?」

「ありがとう」

「え、なにが」

「ぜんぶ、最高だった」

「……ああ、最高に楽しかったな」



きっと、これだけで通じていると思う。

ほんとうに全部が最高の思い出なのだ。



もう大量のドリンクを作ることも、審判台にのぼることも、みんなのスコアをつけることもない。

帰り道にみんなで棒アイスを食べることも、部室で試合の録画を観て反省会をすることも、誰かの喧嘩の仲裁に入ることもない。



さよなら、私の、私たちの、きらきら。



二度と手に入らないものだからこそ、いまとても、すべてを抱きしめたい。






「明日からさ、放課後暇になっちゃうね。そしたらなんでもできちゃうよ」

「たとえば?」

「たとえばー……あ、そうだ」

「なんだよ」

「美澄はさあ、――――――ね」

「ば、馬鹿。普通に受験勉強しなきゃだろ」



美澄の顔が、一瞬、緩む。私はその瞬間を見逃さなかった。だけど、あえて言わないでおいた。



「美澄、廊下で会ったら話しかけてね」

「当たり前だろ」

「ほんとかな〜」

「お前こそ、無視すんなよ?」

「……」

「おま、ふざけんな」

「ははっ」





きっとこの会話も、いつか振り返ればきらきらして見えるのだろう。こういうきらきらを、私たちはここにいるあいだ、無意識に製造し続ける。


それから、大人になっていく。






青空、芝生の上。


私たちはこの夏と、この2年半弱と、お別れをした。