いろんな思い、気持ち。深く呼吸をして、しずめていく。



「ありがと、美澄」



ほんとは、こんな言葉なんかじゃ足りないけど。ひとつ伝えるとするならば、間違いなくこの言葉だ。



「……でもほんとに、理由なんて大したことないよ。さっきも言ったけど、支える側に回りたいと思ったからで。ほんと、それだけ」



挫折したわけでも、テニスが嫌いになったわけでもなんでもない。中学の頃から決めていたのだ。高校ではマネージャーをやろうと。それをただ、実現させただけ。



「そっか。いやー、なんか怪我とかしたのかなーって、そう思ってたんだけどさ。それか、しぬほどしんどい思いしてたとか」

「ないない、大丈夫」

「ならよかったけど」



「はは」とふたりで笑い合って、すぐ。美澄の目が、やさしく細まっていく。



「山田、ありがとな」

「え」



急なそれは、心臓にわるい。せっかくしずめたものが、また浮き上がってくる。その言葉に乗っている真っ直ぐな感情が、じわりと心に溶け込んでいく。



「俺ら、みんな思ってるよ。ありがとうって。いてくれなかったら、練習も、試合も、気合い入んなかった」

「もー、大袈裟だなあ、みんな」

「大袈裟じゃねーよ。坂井も言ってたよ。試合に勝つと山田が自分よりも喜ぶから、それでめちゃくちゃやる気出るって」

「奈実ちゃんが? はは、うれしー」

「山田って最強だよなあ。誰かが勝ってそんだけ嬉しいのは、勝つ喜びを知ってるからだろ? プレイヤーの気持ちもわかってんだもん。ほんと、お前がいてくれてよかった。吉岡も号泣してただろ、『せんぱい、引退やだあー』って」

「玲奈ちゃんね、ほんとかわいいよね」

「山田」

「ん?」

「マネージャーになってくれて、ありがとう」

「……」



なりたくてなっただけなのに。どうして、美澄も、みんなも。

まるで大事なもののように、扱ってくれるのだろう。