名前のとおり、澄んだ目をしている。その目はいつだって真っ直ぐだった。そんなふうにボールを、真っ直ぐ追いかけていた。
「……だって、べつに才能とかないし」
「才能ないやつは、やめなきゃいけないの?」
「違う、けど」
「俺は、山田のプレー好きだったけど」
「、え」
心臓が、どきりと鳴る。美澄からそんなことを聞くのは初めてだった。マネージャーとしてではなく、プレイヤーとしての私の話。それを美澄にされるのがものすごく、むず痒くて、でも、嬉しい気もする。
「ストレート抜かれたら、次は絶対点決めて取り返すとことか」
「……そうだったっけ?」
「カットサーブ、めちゃめちゃ曲がるとことか」
「いや、美澄のサーブには負けるよ」
「俺、女と組めるならこのひとと組みたいなーって。中学ん時思ってたよ」
その瞬間、ぱちん、と。心のどこかで、なにかが弾けたような。
心の中が、あたたかいもので満たされていくような。
そんな、心地がして。
「山田はちゃーんと、才能あったよ」
褒められたくてテニスをしていたのではないのに。美澄にこう言ってもらうために、過去の私は頑張ってきたのかもしれないと。
そう思ってしまうほど、ぜんぶ、ぜんぶ。
いままでのどんな言葉よりも、嬉しく思えた。
「ま、何様だよって感じですけど。でも、ほんとにそう思ってる」
手が、微かに震える。美澄に言われるから、余計に意味を持つ言葉たち。
そう、私はずっと、目の前で笑うこの男のことを、尊敬していたし、このひとに憧れていた。だからいま、鼓動が高鳴るのだ。
青い空に向かって、高く上げられるサーブトス。吸い込まれるみたいに、そのボールを目で追っていた。
中学の頃も、そして、ここでも。
きっと美澄はそんなこと知らないし、これからも、知らなくていい。


