今日は硬式も軟式も、どちらも部活は休みだ。これは毎年そう決まっている。夏休み最終日くらいは遊びなさいよ、と。どちらの顧問もそういう思考をしているらしい。

なのでいまここには、私と美澄、たったふたりだけ。コンクリートだった地面から、緑へ1歩足を踏み入れる。

ここにローファーで入るのは、すごく変な感じがした。



「うわ、ちょー久々って感じすんね」

「ね。この前までほぼ毎日ここにいたのにね」



すぐそこにあるベンチにではなく、人工芝の上へあぐらをかいて座る美澄。スカートの私は、さすがにベンチに腰かけた。

こうしてまた、美澄を見下ろすことに。



「ちょっと話そうぜ」



ここまでついてきたら、拒否権なんてないだろう。「いいよ」と返事をすれば、美澄が体をこちらに向けた。



「俺さ、引退したら山田に聞こうと思ってたことがあったんだよね」

「え、なに?」

「どうして、マネになったの?」

「え……なんだろ。単純だけど、スポーツしてるひとのことを支えたいなって、」

「違くて」

「え?」

「なんで、テニスやめたの」

「……」



なんとなく、それを聞かれる気がしていたけど。引退したら、とか、大袈裟すぎる。そんなふうに言われてしまえば、ちゃんとした理由を述べなければ納得してもらえないのではないかと。そう、思ってしまう。




たしかに、私は中学生の頃、ソフトテニス部に所属していた。マネージャーとしてではなく、プレイヤーとしてだ。


それが高校でもソフトテニス部に入ったものの、マネージャーの道を選んだのだから。美澄が疑問に思うのも、当然のことだと思う。


だけどこれまでに何回か他の部員にも同じことを聞かれては、『ずっとそう決めてたから』と答えていた。それを美澄も聞いていたはずだ。それなのにまた、今日改めて聞かれている。


一体、なんて答えればいいのだろう。