「……誰?」

顔の上半分を覆い隠す、長い前髪。

極端に顔を前へと突き出した、猫背な姿勢。

話したことがない生徒なら、クラスメイトでも疑わないと思う。でも私は……。

「誰って……。相良宗介だけど?」

疑っても、この人はうろたえることもなく、堂々とした態度でウソをつらぬこうとする。

「……っ、誰ですか」

流されないよう、強い口ぶりで再度たずねてみたのだが、

「ああ……。キングって答えたほうがよかった?」

相良くんを装った彼は、私の手首を握ったまま、テーブルに手をついて顔を近づけてきた。

その口元はニヤニヤと笑みを浮かべていて、怪しむ私を面白がっているみたい。

「声が違う……」

問い詰めるために、真ん前の顔を睨みつけると、偽物の彼は口の両端を上げ、「そんなことより」と話を切り替えてくる。

「ココは、まだなんだっけ?」

遠慮なく頬に手を添えてきて、その親指で私の唇を撫でてきた。

「っ……」

「おっと、逃げなくてもいいじゃん」

「やだ、放して!」

何かされそうな気がして、仰け反る体勢をとると、相手の手は頬からうなじへと移り、逃がさないようにするためか、がっしりと首を掴んできた。