「……ねえ、その髪形、地味じゃない?」
彼女がいきなり放った一言だった。
男に向ける台詞かよ、と心で毒づきスルーした。

彼女との出会いはそれが初めてではなかった。
中学のときから数えたら三回も同じクラスになった仲だ。最初は挨拶程度しか交わさなかったのだけど、やがてよく会話するようになった。
その頃はまだ今みたいな感じではなくて、もっと気さくな雰囲気があったように思う。彼女は背が高い方だったのでクラスの女子の中でも目立っていたけど、決して男子受けするような派手な女の子でもなかった。どちらかと言えばちょっと地味かな。だからまさか自分が気に入られていたなんて思いもしなかった。しかも髪型のことを持ち出されるとは思ってもみなかった。

実を言うと俺はくせ毛だ。ツカミ程度なら我慢するが弄られると嫌だ。
なので、三年のクラス替えで関係は終わった。その程度だ。


あの日から何年経っただろうか。彼女の姿を久しぶりに目にしたとき、驚きが隠せなかった。彼女は一体どうしたんだろう? 同級生として見ている限りでは気づかないだろうけれど、恋人同士になってみれば、違和感が広がっていく。彼女の容姿が完全に変わってしまっているのだ。この髪型は一体何なんだろう? ショートレイヤーというらしいけれど、その意味を理解することはできなかった。要するに、今の彼女は以前の彼女とは別人だ。彼女に対するイメージが完全に崩れ去り、彼女がここにいる理由を疑いたくなるほどだ。整形手術をしたのではないかと思ったが、そうではないらしい。
しかし、もう少し控えめに変化していたらいいのにと思わずにはいられなかった。彼女の変貌ぶりは目を疑うほどのものだった。





「うそ!?」



信じられないという顔をされた まあまあと宥めてみるも一向に落ち着かず……こういうところは昔のままだった。相変わらず感情表現豊かな人だよなとつくづく感心させられると同時に安堵している自分がいたりする。こんな彼女だからこそ自分と付き合ってもいいと思ってくれたんじゃないかと思えるからだ。
かくいう俺はストパーに憧れて肩までのばしている。
とにかく彼女には自分のイメージを壊したくないと思っているので、そこはどうか穏便に対応していただきたいのであった。



「ねえ、聞いてる?」



「ああ、うん……」



聞いていないわけではないが、今はそんなことよりも彼女の変貌ぶりに意識がいっていた。いったい何があったんだろうとか、どうしたらあんなふうになるんだろうかとか、疑問ばかりが頭に浮かんでくる始末である。



「あのさあ、私の顔に何かついてたりする?」



彼女は不思議な表情を浮かべている。今日は化粧をしなかったようだ。普段はあまり濃いメイクをしていないけれど、今日は特に素顔に近い印象を受ける。そのため、ますます驚いてしまう。

俺は焦って首を横に振った。彼女は少し安心した様子を見せながら言った。「そうだよ、大丈夫だよ。私、今日は少し自然体にしようと思ってさ。いつもはちょっと派手かなって思ってたけど、最近はもっと自分らしさを大切にしたいんだ。だから、髪型も変えてみたんだ。どうかな、似合ってるかな?」

彼女の言葉に、俺はほっとした。彼女が自分自身を追求している姿に、少し感動さえ覚える。彼女の変化は、単なる外見の変化だけでなく、内面の成長や自己表現の一部なのかもしれない。



「似合ってるよ、すごく素敵だよ。自然な感じが、本当にいいね」と俺は微笑んで応えた。

彼女は嬉しそうに笑顔を返してくれた。この瞬間、俺たちの関係が新たなステージに進んだような気がした。彼女の変化に対して、俺も変わらなければならないと感じた。彼女の自己表現を尊重し、共に成長していくこと。それが俺たちの未来につながる道だと確信したのだ。





私は彼と交わっていた。ただし、私たち二人けではない。周りにはいくつかの子供たちがいた。幼稚園児や小学生くらいの子供たちがいました。彼らは私を先生と呼んでいました。つまり、ここは託児所のような場所です。そして、私が働いている場所でもあります。保育士として、いつも子供たちに囲まれているので、寂しさを感じることはありません。でも、たまには一人になりたいと思うこともあります。そんな時は、ここを利用するのです。

彼は私の夫であり、子供たちの父親でもあります。彼の名前はタカシです。まだ若く、20代半ばですが、もう父親としての自覚を持っています。それが彼のいいところでもあり、悪いところでもあります。

正直言って、私は夫の親バカぶりにうんざりしています。常に子供たちの話題ばかりです。それ自体が悪いわけではありません。むしろ嬉しいことです。しかし、度が過ぎるとちょっと嫌になってしまいます。最近は夫の仕事が忙しくて、帰りが遅い日が続いています。そのせいか、ゆっくり話す機会もあまりありません。そのため、最近では顔を合わせるたびに喧嘩になってしまうことが多くなりました。





最近になって夫の態度が冷たくなったように感じるのは気のせいではないはずだ。原因はおそらく育児疲れだと思う。子供ができたことで夫婦の関係がギクシャクし始めているのだ。これではまるで仮面夫婦だ。



そういえば少し前に夫と些細な事で言い争いになったことがあった。その時、私は夫が浮気をしているのではないかと疑ってしまった。でも、すぐにそんなはずがないと否定した。だってあの人は仕事一筋で、とてもそんなことができるようなタイプじゃないもの。でも、一度芽生えた疑惑はなかなか消えてくれなかった。そして、ついには離婚を切り出してしまったのである。



そして数日後、私は彼に別れようと言われた。



僕は彼女が好きだ。彼女の笑顔が好きだし、彼女の声も好きだった。彼女のすべてが好きなのである。それはもう恋愛を通り越して愛という領域にまで達するほどである。彼女と初めて出会ったのは中学生の頃で、同じクラスになってからは毎日のように一緒に登下校していた。



当時、僕と彼女は特に親しい間柄ではなかった。友達という関係ですらなかったかもしれない。ただのクラスメイトというだけの認識しかなかったのである。しかし、ある日を境にして僕らの仲は急速に縮まった。そして、いつしか恋心を抱くようになっていた。



今にして思えばあれは初恋と呼べるものだったのだろう。それからの僕の行動は実に単純明快なもので、彼女に相応しい男になろうと努力してきた。成績を少しでも上げようと必死だった。運動も頑張った。苦手な勉強にも取り組んでいた。しかし、それらは全部、彼女を想うがゆえの行動だった。だからと言ってそれで学力が向上するということはなかったけれど……。でも、そんな僕を周りは凄い奴だと持ち上げてくれたので嬉しかった。もっとも、当の本人はそんな大層なことは全然考えていなかった。あくまで彼女に相応しい存在でいたかっただけなのだ