日曜日のお昼頃。

 あれから犬飼くんは約束通りに一緒に帰る時は事前にチャットを送ってくれるようになった。
 連絡先を交換した次の日は友達と帰ったけど、それ以外の日は犬飼くんと下校していた。

 なんだかんだで、私は犬飼くんの事も普通に仲の良い友達として接している。
 おかげでクラスの友達たちからは、色々と聞かれたりしたけどね。でも、今日のことだけは秘密にしていた。

「ちょっと早く着きすぎちゃった」

 約束の時間よりも30分早く着いた私は、駅の前で犬飼くんを待っていた。

 学校の時とは違って私服だから、ファッションも意識して年相応の高校生らしい可愛い目な服を選んだけど。…変じゃないよね。

 白いワンピースに水色のVネックセーター。
 友達にも褒められたことある服装だから、大丈夫だとは思うんだけど。

 ガラスに薄らと映る自分の姿をじっと眺める。
 髪も普段は下ろしたセミロングだけど、今日はポニーテールにしてみた。

 ちょっと気合い入りすぎ?

 男の子と二人で出掛けるなんて初めてだし、犬飼くんの服装にも合ってるかそれだけが心配だなぁ。

「ねぇ、君ひとり?」
「俺らと遊びに行かない」

 一人でぶつぶつと考えていたところに二人の男性が話しかけてきた。

 見たところ、大学生くらいに見えるけど。

「わ、私ですか?」
「そうだよー」
「ねっ、一緒にどう?」

 徐々に距離を詰めてくる二人に挟まれて、どうしたらいいのかわからなくなる。

 私、こんな風に話しかけられるの初めてだ。
 本当にこういう事ってあるんだ…。

「で、でも私。人を待ってて…」
「えー、彼氏持ち?」

 彼氏…。

「彼氏じゃない…ですけど」
「じゃあいいじゃん!」
「いいカフェ知ってるんだよね」

 小声で呟いたことを拾われて、余計に言い寄ってくる男性たち。
 しまったな。こういう時って、嘘でも彼氏だって言っとかないといけないんだ。

 待ち合わせの時間まではまだあるし。
 近くを通る人たちも助けてくれそうな人はいない。

「ねーねー」
「遊びに行こうよ!」

 ど、どうしよう…。

「すみません」
「あっ…」

 下を向いて俯いていると、肩を抱き寄せられた。
 声を聞いて、顔を上げると見知った顔の男の子がいた。

「犬飼くん…」
「ごめん瑠夏、遅れた」

 息を切らせた犬飼くん。
 紺色のカーディガンに身を包み、カジュアルな私服姿の彼に私はそのまま肩を引かれる。

「行こうか」
「う、うん」

 私たちがその場から離れると。

「なんだー」
「やっぱ彼氏持ちかー」

 そんな声が聞こえてきた。

 私たち、そんな風に見えるのかな。

 でも今は、あの場に犬飼くんが駆けつけてくれたことにすごく安心した。