「そうだ。瑠夏も食べる? オムライス」
「えっ、いいの?」
「もちろん、せっかくだからシェアしようよ」
そうして、スプーンで一口分のオムライスが掬われた。
「はい! あーん」
「!?」
犬飼くんが私の口の前までスプーンを持ってきてくれてる。
こ、これって関節、キス!
私がさっき気にしていた事が、今まさに目の前に。
無意識…なのかな。
犬飼くん、結構恥ずかしいことも当たり前のように話したりするから、これもそれと同じなのかもしれない。
「食べないの?」
「……食べる」
私は少し考えて、口をゆっくりと近づけた。
「はい、どうぞ」
「あ、あーん」
私はおそるおそる口を閉じ、犬飼くんはそれに合わせて優しくスプーンを引き抜いた。
とろとろの卵と香ばしいケチャップライスの味を噛み締める。
「美味しい?」
「うん、すごく」
意識が味よりも別のところに持っていかれるけど、レモネードの時とは違って今回はちゃんと味を感じる事ができた。
「だよね。これは学生にも人気出るよ」
安くてお店もオシャレで、こんなサービスまであったら、若い層にはありがたい事この上ないもんね。
私も実際そう思った。
「……」
それから私は、カルボナーラを小さく巻いて左手を添えて浮かせる。
犬飼くんにもしてもらったんだし、お返ししても良いよね。
「犬飼くんも食べる?」
「いいの!」
目をキラキラさせて身を乗り出す。
「最初見た時から食べてみたかったんだよ!」
そう言って、口を近づけてくる。
「頂きます。あー…ん」
開かれた口に、私はカルボナーラを食べさせる。
「っ! めっちゃ美味しいじゃん!」
「ふふっ、うん」
嬉しそうに口をもぐもぐとさせる犬飼くんを見て、心が暖かくなる。
彼といると、なんだか心地良い。
初めて一緒に食事をしてるけど。犬飼くんとの時間は普通の友達と、少しだけ違う気がする。
男の子だからかな。
「……てかごめん。これ間接キスだったよね」
「あ、うん…」
左手で口を隠しながら言われ、犬飼くんもようやくそれに気付いたみたいだ。
「完全に無意識だった。気が付かなくてごめん…」
「ううん、そんな事ないよ。もう終わった事だもん」
私の方こそ、わかっていてやったのだから、むしろ私の方が罪は重いと思う。
「そっか、良かった。俺、瑠夏に嫌われたら生きてける気しないや」
「!」
それも無意識なのかな。
少なくとも、犬飼くんの好意が私に向いていると思わせるかのような言葉だったけど。
どうしよう。また顔が熱くなってきた。
犬飼くんは、私は顔に出てわかりやすいって言ってたから、こんなところあまり見せたくない、かも。
「こ、この後はどうする?」
逃げるような話題を変えて、自分の感情を誤魔化す。
「そうだね。事前に街に行く予定は立ててたけど、回る順番とか決めてなかったな」
幸い犬飼くんには気づかれてないみたいだ。
スマホを取り出して、何やら調べてくれている。
まだ時間はあるし、この後の犬飼くんとの、デ、デートも楽しみだな。


