一瞬、変質者かと思ったものの、さすがにこの状況を見て見ぬふりはできない。俺は女性に声をかけてみることにした。
「あの……大丈夫ですか?」
女性はビクッとしてこちらを振り向くと、ゆっくりと立ち上がった。
「あぁ……びっくりした」
声の主を確認するなり女性は胸を撫で下ろしていたが、すぐに申し訳なさそうな表情を浮かべると再び頭を下げた。
「すみません!お邪魔するつもりはなかったんですけど……」
「いえ、別にいいんですよ。それよりどうかされたんですか?」
「えっと……実はですね……。私、どうしても叶えたい願い事があってここに来たんです。それでお願い事をしているうちに眠ってしまったみたいで……。気付いたらここで土下座をしていたというわけです」
「よくわからない。罰ゲーム配信か何かなの?」

なんだそんなことか。俺は思わず笑ってしまいそうになったが、何とか堪えることに成功した。
「そっか、なるほどね。それじゃあ俺も同じことをしようかな。せっかくだし、二人でお願いしたら叶うかもよ? 何を祈ってるの?」
彼女は顔を赤らめ寄せてきた。
なんなんだ。いきなり。俺は身を引き締めた。心臓がバクバクする。
そんなことおかまいなしに彼女は耳元でささやいた。

聞いて驚いた。俄に信じられない話だ。だが現に()()は隣にいるのだ。
協力するか否か。左右に腕を振って「神様の言う通り」に決めた。
「本当ですか!?ありがとうございます!」
女性は嬉しそうに笑うと、俺の隣に立って手を合わせた。
「それじゃあいくよ?せーのっ!」
「「神様仏様観音様」どうか」
「文化祭禁止霊さんたち、どうか私たちの学校に来てください!」
女性の放った言葉を聞いた瞬間、俺は唖然としてしまった。まさかこの人も俺の学校に幽霊が出るという噂を信じているのか?
「あの……どうしてそんなことを言うんですか?」
恐る恐る尋ねると、女性は笑顔のまま答えてくれた。
「それはもちろん私の願いを叶えてもらうためですよ!だって、もし本当に幽霊がいるなら私の願い事も聞いてくれるかもしれないじゃないですか。だからあなたと一緒に来たんですよ」
なんだよ、そういうことだったのか。だったら最初からそう言ってくれればいいものを……。それにしてもこの人は一体何者なんだろうか。俺と同じように噂を聞いてここにやって来たんだろうか。それとも……。