御曹司の初恋ーーお願いシンデレラ、かぼちゃの馬車に乗らないで

「あの、浅田さん?」

「管理人が風呂と食事の準備を整えてくれたそうだ。あぁ、ワンピースが良く似合ってるね」

 指と指を絡ませ、取ってつけたお世辞を言う。
 私とて男性と二人きりで過ごす意味は理解しているつもりだ。しかし、ここまで露骨に下心を剥き出しにされたら怯む。

「ーーやめて、下さい」

 粘り気のある雰囲気を掻い潜り室内へ上がった。

「まぁ、いい。いつまでも逃げ回れないからね」

 せいぜい頑張りなさい、そんな含みを込めて浅田さんは私の肩を叩く。

 浅田さんから私への愛情は微塵も感じられない。とあるパーティーで見掛けた私を見初めたらしいが、単に家柄と若さがお気に召したのだろう。冷たい眼差しは一回りも離れた相手を狩りたがっている。

 ここは勝手知ったる場所とあって無言で二階へ逃げ込む。すると浅田さんは追い掛けてはこず、リビングでテレビをつけたようだ。

「はぁ」

 あの人に抱かれる夜など訪れなければいいのに。母が使っていた鏡台の前で願い事を唱えた。
 ついでに、鏡よ、鏡、世界で一番愚かな選択をするのは誰かと聞いてみようか。間違いなく鏡の精はこんな土壇場になってから斗真さんへ好きだと伝えたがる私を映すはず。