御曹司の初恋ーーお願いシンデレラ、かぼちゃの馬車に乗らないで



 進路を再び別荘へ。到着すると先に浅田さんがやって来ていた。

「遅かったね」

 私の姿を見付け、車から降りると挨拶もせず不快感を表す。

「お待たせしてすいません。浅田さんがいらっしゃるのは、もっと遅い時間と伺っていましたので」

 一瞬、呆気に取られるも慌てて頭を下げた。

「君の為に仕事を早く切り上げてきたんだが?」

 サプライズが失敗した為か、浅田さんの機嫌は宜しくなさそう。

「……そうだったんですね、本当に申し訳ありません」

「はぁ、管理人から鍵は預かっているよ。中でゆっくりさせて貰ってもいい? 久し振りに運転したから疲れたんだ」

 今日は運転手が同行していない。滞在は一日なので荷物は多くないものの、浅田さんは私へ鞄を預けると敷地内へ入っていく。

「この別荘は両親が若い頃によく遊びに来ていたんです。自然に囲まれて癒やされますよね? 耳を澄ますと野鳥の鳴き声が聞こえるんですよ」

「あぁ、そう」

 振り向かない背中へ世間話を投げ掛けてみたが広がらない。近くの森に小屋があり、幼少期はそこで野鳥観察していた話をしても興味は引けないだろう。

「はい、人の家を勝手に開ける訳にはいかないでしょ?」

 ドアの前までくると両手が塞がった私に鍵を差し出す。

「え、あ、そ、そうですよね。失礼しましたーーっ!」

 私としては解錠してくれて構わないが、そう言うならと荷物を下ろす。
 と、鍵を受け取る仕草を握られた。