御曹司の初恋ーーお願いシンデレラ、かぼちゃの馬車に乗らないで

「もしもし? 姫香か?」

 応答するなり焦った声が届く。一方、私は目を閉じて心を落ち着かせる。とんな感情を乗せていても斗真さんの声を聞くと安心した。

「結婚するってどういう事だ? 俺は何も聞かされてないぞ」

 父の件を含め、縁談についても口外しないよう強く求めて、特に斗真さんにバレない配慮をする。彼の優しい性格を考えれば協力を申し出、迷惑をかけるのが明らか。心配もかけたくなかったので。

「イタリアは深夜では? メールで起こしてしまいましたか?」

「いや、君からの連絡に時間は関係ない。それより結婚? 誰と?」

「浅田さんという男性です。叔父の紹介で結婚する事になりました。報告が直前となってしまい、申し訳ありません」

「浅田? 浅田不動産のか? 彼は君より一回りも年齢が上のはずだろう? 何故こんな急に結婚を?」

 疑問を重ね、どうやら浅田の名は知っているらしい。声音が一段階沈む。

「年齢は関係ありませんよ。斗真さんと私もそれなりに離れているじゃないですか」

「それはそうだが……姫香、今、何処に居るんだ? 外か?」

 返事の代わりに警笛が響く。ホームでは電車がすれ違う。

「伊豆の別荘、婚前旅行です。そろそろ切りますね」

「お、おい待て、話は終わってない! 姫香!」

「斗真さん、どうぞお元気で。声が聞けて良かったです」

 身勝手に別れを告げ、通話を終えた。
 これ以上、話をしていると気持ちが揺らいでしまうから。