御曹司の初恋ーーお願いシンデレラ、かぼちゃの馬車に乗らないで

「姫ちゃんの取り柄は従順で可愛い所じゃないか? その若い身体を差し出す以外に何が出来るの?」

「酷い! 初めからそのつもりで浅田さんを紹介したんですか?」

 やっと気付いたのか、伯父様の目が物語る。この奥まり淀んだ瞳に飲み込まれそうだ。

「あぁ、そうだよ。伯父さんはね、姫ちゃんのお父さんがずーっと、ずーっと憎かったんだ」

 幼い子に言い聞かせるよう、はっきり丁寧。かつ種明かしをするマジシャンみたいに得意気に言う。

「君のお父さんは若くして成功し、お母さんと結婚した。君のお母さんはそれはそれは美しい女性で、伯父さんの初恋の人でもあったんだよ? お父さんは伯父さんの欲しい物を何でも持っている」

 私の前へ手を翳し、父の得た物を言うたび指を折り始めた。

「まず社会的地位、鳥類研究の第一人者として名が通っている。次にこの屋敷や伊豆の別荘などの不動産、私にも権利があったが結婚しているという理由で姫ちゃんのお父さんに相続された。それからーー」

 やめて聞きたくない、耳を塞ぎたい。

「ほら、ちゃんと聞きなさい。お父さんーー弟が妻の忘れ形見として慈しみ、幸せな巣立ちを心待ちにしていた君という雛鳥を蛇にくれてやる。さぁ、浅田さんへ謝りに行こう? 許して貰えるよう、伯父さんも一緒に謝ってあげるから」