御曹司の初恋ーーお願いシンデレラ、かぼちゃの馬車に乗らないで



「浅田さんが姫ちゃんとは結婚出来ないそうだ」

 場所を屋敷に移し、伯父様は深いため息を吐く。
 病院や車内で声を荒らげなかったのは周りの目があるからで、伯父様は世間体を何よりも気にする。

「式場を抑え、招待状も出しているのに今更過ぎないか? 聞けば、姫ちゃんから婚約破棄を申し出たらしいじゃないか? どうしてだい?」

 この言い方だと、浅田さんは斗真さんの事を伝えていないのだろう。
 私に一方的な非があると言い付ける際、斗真さんの話を持ち出せば叔父は手のひら返しをするに決まっている。斗真さんに擦り寄る。

 屋敷内は伯父様と二人きり。家人はまだ父の病院に居る。
 伯父の口調は段々と怒りを滲ませ、ボリュームも上って響く。

「浅田さんの資金援助が無ければ、この家はおしまいだと本当に分かっているのかい? こんな綺麗な洋服だって着られないんだよ?」

 肩を揺さぶられ、よろける。そして伯父様は傾いた我が家の象徴だと言わんばかり、私を突き飛ばすと床に広がるワンピースの裾を踏みつけた。

「お父さんの治療費はどうする? また発作を起こしたんだってね。退院の目処は立たないのだろう?」

「父の医療費だけは私がなんとかします」

「なんとか? どうやって?」

 叔父も屈み、私の顔を覗き込む。膨れた腹部が姿勢維持を難しくするのか、グラグラ定まらない。それがまた不気味で。