名は体を表す。姫香はお姫様みたいで、優しい香りがする。メールのやりとりで姫香が庭の花の様子を楽しく語る姿が浮かび、日々仕事に追われ、潤いのない生活をしていた自分がどれほど癒やされていたか。

 胸が痛む。姫香の笑顔がみたい。

「もしもーし、もしもーし、悲劇のヒーロー気取りのところ申し訳ございませんが、まだお話の途中ですよー」

「……聞こえている。大体、君が次から次へと仕事を入れてくるからいけないんだぞ」

「私は秘書です。あなたのこなせる仕事量を把握し、無駄なくスケジュールへ落とし込むだけですよ。あぁ、愚問でしょうがーー」

「ここまで来て諦める訳ないだろ!」

 俺は遮り、こう続けた。

「優秀な秘書なら先程の商談日程をコントロールして貰えるよな?」

「それは商談相手がどなたかお分かりになった上で仰ってますよね? 社運を左右する大きな取引より色恋を選ばれるのですか?」

 と言いつつ、キーボードを叩く音が聞こえる。苦楽を共にしてきた相棒は口が悪いが、最良の選択をする俺のサポートを惜しまない。

 仕事は大事、そして姫香も大事。どちらか一方だけじゃ俺の世界は成り立たない、ガラスの靴は両足あってこそ。

 俺は薔薇を失敬し、姫香の後を追った。
 彼女を乗せたかぼちゃの馬車はとっくに見えなくなっており、それでも必ず探し当ててみせるから。

 ーー待っていろよ、シンデレラ。