御曹司の初恋ーーお願いシンデレラ、かぼちゃの馬車に乗らないで

「もしもし?」

 着信は実家であった。キスの余韻を手で煽扇ぎつつ、窓辺へ移動する。
 ここの庭の景色もお気に入りだ。色づく薔薇をガラス越しに触れる。

「も、もしもし? お嬢様、今どちらに?」

「伊豆の別荘だけどーーあぁ、浅田さんから連絡が入ったの?」

 浅田さんならばあり得る。素直に引き下がらず、伯父様へ言い付けた可能性も高いか。

「いえ? 浅田様からは何も。浅田様は側にいらっしゃいますか?」

 家人は私ではなく浅田さんへ用件を伝えたい言い回しをする。

「浅田さんは今いらっしゃらなくて、その、驚かせるかもしれないけどーー」

 斗真さんとの件を説明したら混乱するだろう。それでも皆は喜んでくれるに違いない。

「あのねーー」

「旦那様の容態が急変したのです。お嬢様も早く病院へいらして下さい!」

 もじもじしながらも発表しようとしたら、掻き消される。

「え……」

「そちらに迎えをやっています。そろそろ車が到着すると」

 丁度、敷地内に車が入ってくるのが見えた。あれはうちの車だ。

「お父様が……お父様が」

「お気をしっかり持って下さい。病院でお待ちしています」

 お父様の容態が急変したーー報告内容を繰り返す。
 幸せから一気に叩き落され、目の前が真っ暗になる。薔薇を撫でていた指が滑り落ち、色を失う。

 ああ、病に伏せた父を忘れたつもりはないがイタリアへ行きたいと思った。バチが当たったんだ。